第51話

わたしが苦しいのは自業自得。


わかっていて店長を選んで、わかっていて恵里さんを裏切った、いちばん傷ついているのは恵里さんだ。


恵里さんが苦しんでいるのは、わたしのせいだ。


全部、全部、わたしのせいだ。


だから、泣く資格なんて、ないんだ……。













『ひなた、俺さ、ひなたに出会うまで、あんま人のこと信じてなくて……』


ぽつりぽつりと言葉を紡ぐ悠真の声に耳を傾ける。


いつも勝手にいなくなりそうな不安を与える悠真に、少しだけ、わたしは信頼されていないんだと感じていた。


わたしだけじゃなかったんだ……。



『俺さ、父親がいなんだ。母親と兄貴と三人家族。なんとなく家にいるのが嫌でさ、ふらふらすると隼人がすぐに飛んでくるんだけど、居場所ってない気がしてて』


『……わたしもだよ。居場所、ない気がきて。じぶんのこと誰か見つけてくれないかなーって思ってた』


『年上なのにどっか危なっかしいよな』


『言うほど危なっかしくないよ。意外としっかりしてる』


『それも最近わかった。傍に行くまで知らないひなたがたくさんあった』


『悠真も…、意外と怖がりの寂しがりだね』


『ギャップだろ?……ひなたは、これから先も傍にいてくれる?いつか、いなくなる?』











わたしは、なんて答えたのかな。


もう覚えてないけど、悠真との約束も破ったのかな。


店長の家で出かける支度をして、恵里さんと約束したカフェへと向かった。


昨日着ていた洋服も洗濯してくれたみたいで、お店の臭いがしないきれいな状態で着れた。


柔軟剤も女性は敏感に反応する話をしたら、わたしと店長の柔軟剤を他のものに変えてくれた。


店長は私以上に罪悪感を抱いているのにそれを表に見せようとしない。


わたしが傷つかないように、小さなところまで気を使うんだ。


店長には話してないけど、どことなく悠真に似ている部分があってときどき2人が被って見える。


意外と嫉妬深いところや寂しがりなところ。


会えないときは電話しないと寝れないところとか。


店長のほうが年上なのに悠真と付き合っていたころと変わらない。


もしかしたら、店長越しに悠真を見ているのかもしれないな。


だとしたら、恵里さんは悠真を忘れられないわたしなのかも。




カフェの扉を開けて中を見渡すと、スマホを見つめる恵里さんの姿があった。


この時まで、わたしたちの関係はいつも通りだと思っていた。

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