第52話
恵里さんがわたしの視線に気づいて顔を上げる。
「恵里さん!」
わたしは軽く手を挙げて恵里さんの座る席まで歩いた。
恵里さんの正面になるイスを引いて座るとすぐにウエイターさんがきて、恵里さんとおなじアイスカフェラテを頼んだ。
もう12月なのに店内は暖房が効いていて暖かかった。
朝食は店長が作ってくれたお手製サンドイッチを軽く食べてきただけで、食欲旺盛なわたしはカフェに充満するランチメニューの香りに鼻が反応した。
飲み物きたら軽い軽食も頼んじゃおっかな~なんて思ってメニューに手を伸ばそうとした瞬間、重く閉ざした口を開いた。
「ひな、あいつと関係持ってるの?」
カラン――――
恵里さんのアイスカフェラテが小さな音をたてた。
少しの間、時間が止まって気がした。
わたしたちに流れる空気を気にせず、店員がわたしの前へとアイスカフェラテを置いていった。
もう、逃げられない。
終わりのカウントダウンが始まった気がした。
元には戻れない、店長とのサヨナラが始まる、なのに。
どこかで私は、この恋の終わりを待っていた気がする。
「関係を持っています、店長と、」
恵里さんに応えた私の声は、思っていたよりもしっかりとしたものだった。
side恵里菜
わたしの問いに応えるひなの顔は、わたしの知らないひなだった。
まだひなは子供だと思っていたから、余計にそのギャップに驚いた。
ひなも成人した大人の女性なのに、なんで子供のように感じていたんだろう。
少し幼い印象を残したひなを大人にしたのはあいつなのだろうか。
あいつはひなのことも、苦しめるのだろうか。
ひなとあいつの関係を疑い始めたのは、ひながバイトを始めてから1カ月を過ぎた頃、なんとなくあいつの変化を感じた。
付き合っている頃からコウには入り込めない壁があって、決してわたしを入れてくれることはなかった。
その壁にすら気づかれることを嫌がって、コウの機嫌を損ねないようわたしは知らないフリを続けてた。
コウに愛されたかった、嫌われたくなかった、その一心でコウの気持ちを優先した。
コウの子供を授かったときに、正直嬉しい気持ちと、悲しい気持ちが一緒にやってきた。
産めないとわかっていたから、コウが産む道を選択できないと、わかっていたから。
頭で理解していても、心は勝手に期待をする。
覚悟をしていても、実際に目の当たりにすると辛かった。
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