ひなたと恵里の選ぶ道

第50話

わたしが起きたときにはもう朝日が登った頃で、もちろん店長は隣にいなかった。


今日は早い出勤の日だから、もう仕事場に顔を出してるはず。


わたしはいつもした後は睡魔に勝てずに寝ちゃうから、寝起きは裸。


その状態でうろうろされると困る!って店長に怒られて、起きたらすぐ服が着れるよう畳んだものを置いてくれるようになった。


今日も店長が普段着ている大きめのTシャツだけを着てシャワー室へ向かった。





久々に夢を見た、悠真の夢だ。



12月10日は初彼の誕生日で、今年は気にすることなく過ぎたと思ったのに、悠真の夢を見て引きずり出されるように記憶がよみがえった。


悠真に告白したのは12月12日、初彼と幼馴染みとの衝突がきっけだった。


そして、16日は悠真の誕生日。


あれから2年経ったーーーー


悠真とわたしの関係はやっと終わったのに、なにかきっかけがあるとすぐに、私を過去へと追いやる。



夢の中で悠真が泣いてた。


そして私も、…戻りたい、戻りたい、悠真のところに戻りたいって、……。


もし戻ったら、店長は?、店長を独りにするの?裏切ることになるの…?


熱いシャワーはわたしの体を温めるのに心はどんどん冷えていった。


「会いたいよ…店長、店長…」





じぶんがどんどん情緒不安定になっているのがわかった。


心が疲れているのかもしれない。


昨日も店長はわたしのスマホを確認したかな?また、心配かけたのかな…。


わたしが選んだ道だから大丈夫。


そう思ってるのに、実際に恵里さんを目の前にしたら罪悪感に締め付けられて苦しい。


店長はずっとこの苦しみと向き合ってたの?


シャワーの熱じゃない、冷たいものが頬を流れて、じぶんが泣いていることに気づいた。


泣いたのは無意識だったけど、じぶんが涙を流していることに気づいたら止めどなく涙が溢れだした。


「ぅっ…う、ぅ……~~~っ…辛いよぉ…」


店長、限界かもしれない。


心がどんどん悲鳴をあげていく。


店長、助けて…、助けて…、苦しいよ…。


覚悟していたはずなのに、頭ではわかっていたのに、心が苦しいと叫んで止まんないよ。


恵里さんの顔を見るのが辛い、店長と一緒にいるときも恵里さんのことを思い出してしまう。


離れないといけないって心が叫んでも、店長と離れることの方が何倍も何倍も辛くてわたしは逃げ場を失う。


店長はわたしのことを天然だ鈍感だっていうけど、恵里さんのことだって蔵永くんのことだってちゃんと見えてるよ。


恵里さんがわたしと店長の関係に気づいていることも、店長がお店の子とこういう風にならないように監視していたこと、わたしに近づいたのもそのためだったって。


だけど、優しくしてもらえたから。


良い人だと分かっているから、本当に店長が好きで苦しんでいるって知っているから、それに気づいていないフリをしたいんだ。


全部知っていて離れることが出来ない私が最低なんだもん。

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