第46話

俺がこうやって確認しなかったらひなたは絶対言わなかった。


ひなたの私生活にまで影響するのは本当に困る、恵里に辞めさせたいが、俺から言うにしてもタイミングと言葉を選ばないと、余計にひなたへと火の粉が飛んでいくだろう。


ひなたの目の下にうっすら隈ができてる。


ひなたは、辛いとか、もうやだとか、じぶんのことを伝えることが苦手だ、じぶんの辛さにも鈍感で、俺はあとから知ったり、こうやって身の回りのことを確認しないと気づけない。


蔵永からラインが来てないかも確認した。





蔵永とひなたの距離が縮まってることに気づいたのは、この間の飲み会の時だ。


その日はひなたが遅番の日で、遅れて飲み会に参加した。


先に来ていたメンバーはだいぶ出来上がっていて、酔っ払い西野を連れてめぐが入れ代わりで帰るところだった。



ベージュのダッフルコートの上から巻いていたお気に入り紺ストールをとりながら、ひなたは残念そうな声を出した。


「え…めぐさんもう帰るんですか…?」


しゅんっと音が聞こえてくるぐらい分かりやすく落ち込むひなたに、「ごめんねひなちゃん、また今度ゆっくりご飯でも行こうね」と、めぐも名残惜しそうに声をかけて飲み会を後にした。



入り口から離れた席に座っていた俺でも、ひなたのもう、帰ろうかなーと呟いた声が聞こえるほど、こいつはいつも分かりやすい。


せっかく俺がいるんだから、帰らず近くにいろよと思うほど、ひなたへの独占欲は強くなっている。


めんどくさい西野がいなくなったし、ひなたを堂々俺の隣に呼ぼうと思ったら……、珍しい声がひなたの名前を呼んだ。



「実蔵、こっちこいよ」



ーーーー蔵永だった。



「え?蔵永くんの隣?」


「…なんだよ、文句あんのか?」


「ひっ…ないっす!喜んで!」


「早く来い!今お前のやらかしたバカな話してんだよ」


「えーーー……」


嫌そうな声を出しながらも、ひなたは蔵永の隣に腰掛け渡されたドリンクメニューに目をやった。


ようやく俺の存在を視野に入れたひなたは、一通りドリンクメニューを確認したらノンアルカクテルを選んで注文した。


「…なんだよ実蔵、お前飲まないのか?」


「お酒弱いんだよー…、蔵永くんなに飲んでるの?え?ロック?10年ものの?うわ匂い強!」


蔵永が近づけたグラスの匂いを嗅いだひなたはその場でバタバタする。


「それ何杯め?」


「7?」


「蔵永くんお酒強いんだね」


運ばれてきたノンアルカクテルを飲みながら食事メニューに目を通すひなたを、少しとろんとした瞳で蔵永が肩肘ついて眺めていた。

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