第45話

いつも店長はわたしを抱きながら、幸せそうな顔で笑ったり、泣きたいように顔を歪めたりする。


なにが悲しいのか、なにが苦しめてるのかわからないけど、わたしの体全体が店長を愛しいって、守りたいって言ってるよ。



冷たく見えて、素の店長だって優しいままだよ。


誰よりも優しくて、人のことがよく見えて、自分よりも周りを優先する店長が、影でどれだけ傷ついて我慢をしてるか、わたしだって少しはわかるよ。


言ってくれたら受け止めるよ。


話してくれたらわたしが店長を守るよ。


こんな脆くて本当は弱いのに、周りのためにこんなに強く頑張ってる店長が、愛しくて仕方ないよ。



もし、わたしから離れるときがきても、店長が恵里さんの元に戻るときがきても、わたしは店長の幸せをこれからも願うよ。


店長の気持ちが休まる場所がありますように。


店長が弱さを見せれる女性がそばにいてくれますように。


寂しがりで強がりな店長にそのままでいいんだよって愛してくれる人がいますように。



店長はじぶんに厳しいけど、もっと優しくしていいんだよ?


そう言うと俺の成長が止まるって嫌がるけど、傷だらけよ心が癒える前に新しい傷を作って、それでも店長は店長でいないとだめなの?



わたしには無理だったけど、店長の何重にも鎖が繋がれた扉を開けれる女性に出会って、幸せになってほしい。


わたしにそれが出来ないのが悔しいけど、店長がわたしを必要としてくれる今を大切にする。




情事後の気だるさがわたしを襲う。


店長はいつも通りタバコを吸いながら優しくわたしの髪をとかす。


徐々に睡魔に飲み込まれ、店長の温もりを感じながら意識を手放した。






side店長




すやすやと寝息を立ててひなたは深い眠りに落ちる。


元々の癖なのか俺の方を向いて丸くなる姿は猫に見えて仕方ない。


関係を持ってからどんどんひなたに惹かれていく、中毒並だ。


音を切っていたから鳴ることはなかったスマホには数件以上の着信とラインが入っていた。


全部恵里からだろう。


じぶんのスマホを確認する前に、床に散らばった洋服の中からひなたのスマホを取り出す。


ひなたから聞いたコードを打ち込みロックを解除した。


恵里のこともあるから隠し事は極力無くしたい、そういった俺の思考を飲んで解除コードを教えてくれた。


もちろん俺の解除コードもひなたに教えてある。


じゃないと、ひなたが一人で抱え込んでることを把握しきれない。


恵里がひなたと仲良くなればなるほど、ひなたはどんどん追い込まれ恵里の思い通りに動かされるはずだ。


こいつだけは守る、手に入れたときからそう決めてる。


俺のわがままで側にいてもらってるんだ。





ひなたのスマホには俺以上に多い着信とライン件数が入っていた。


俺がしつこくされるのが嫌いなのを知ってるからあの件数で我慢したんだろう。


だけど、その分のつけが全部ひなたに向けられるこの状況にもだいぶイラついていた。


既読にならないようにトークラインを確認し、着信履歴を遡るとほとんどが恵里からだ。


不在着信も多く、講義の時間帯やひなたの寝ている時間、バイト時間と昼夜問わずの着信だった。


これはさすがにやばいだろ。

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