第43話

店長のリビングの時計が夜中の1時を指した。


今日は金曜日だし、皆騒いで中々帰らないだろうな…。


いつも通り3時近くの帰宅を予想していたら、―――ガチャっと玄関の鍵が開く音が聞こえた。


ソファーに身体を丸めて座っていたわたしはクッションを放り投げて、玄関にいるであろう店長の元へと走った。


片手をついてブーツを脱いでいた店長はわたしの足音に気付いて目線をあげた瞬間に――――「おかえりなさい!!」と思いきり飛びつく。


店長はしっかり片手で受け止めてもう片方の手で器用にブーツを脱いだ。


わたしは店長の首に腕をまわして、店長から香るマルボロと香水の混ざった匂いをくーんと吸い込んだ。


両方のブーツを脱ぎ終わった店長はわたしの腰に腕をまわしてそのままリビングへと歩く。


ソファーの近くまで来るとわたしを放り投げ、着ていたコートやストールを脱ぎながらコーヒーをセットしにキッチンへ向かった。


「店長寂しかったです!!」


放置プレイに耐えきれず、ソファーの上で正座しながら訴えかけると困った顔で笑った。


「付き合う前はあんなにツンツンツンデレだったのに、付き合あったら甘えん坊って反則だろ」


「反則じゃありません!!」


キッチンにいる店長に後ろから抱きつくと、ふわっとわたしの大好きな香りがした。


甘めイケメンフェイスの店長にはグレーのカラコンは似合わないけど、白のだぼっとニットはとっても似合う。


わたしが言ったことを結構気にすることを最近知ったから、グレーのカラコンやだはもう言わない。


我慢する店長が悲しそうだったから。





店長はわたしのことツンツンツンデレだったというけど、最初の頃の店長はもっと怖くてこれが素!?だったらやだよ!!って思った。


こんな怖い部分も、こんな関係になったらちょうど良いS加減になって安心した。


しかも、自分が思っていたよりも店長は子供で焼きもち妬きで、秋人を呼び捨てにしているのも実は嫌みたい。


秋人との会話で男の人の顔文字連発はきもくてやだーって言ったことをしっかり聞いていた店長は、その日から顔文字をつけてくれなくなった。


店長のことを言ったわけじゃないのに、他の人(秋人)とかに使っているのを見るとしゅんっとなる。

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