第35話

「わたしが好きになる人はみんな、優しい人だよ」


「ひなたがそうやって過去の男を大事にするのも嫌だった。俺は絶対そっちに行かないと思ったのに、ついになっちまった」


「どんまい!」


「めっちゃ笑顔でいうことじゃねえから」


「悠真のことこれ以上嫌いになったり憎んだりしたくなかった。きれいな思いでのまましまいたかったら、ほんとよかった」


「………」


悠真から色んな気持ちが混ざって届く。


声に出さなくても悠真が思うことは感じ取れる。


それだけ私と悠真はとても近い距離にいた。


お互いがお互いを必要としていて、お互いに依存しあってたと思ってた。


「悠真、わたし、悠真と付き合えてよかった。幸せだった。もらったものたくさんあるよ。大事に持っておくね。もらった言葉も、してもらったことも、これからもずっと大事にしまっておく」


「……俺は、ほんと、…」


「悠真の彼女兼、母親兼、姉だったもんね。別れたあとも側で支えること出来なくてごめんね。今は、、余裕がない、わたしも悠真を忘れることで精一杯だよ」


「………ひなたが好きになった奴ってどんな?、」


「それって聞いて楽しいやつ?」


「聞いたら諦めつくかもしれないじゃん」


「反対に悠真、怒るんじゃないかな?」


「やっぱ最低なやつに捕まってんじゃん、だから言ったじゃん、男運悪いって」


「でも、優しい人ばかりだって言ったじゃん。」


「優しい人は自己中心にひなたを振り回すんだよ。優しいのは繊細だから、じぶんが傷つきやすいから、自分を守るために必要だから」


「そんなことないよ。悠真の優しさはそうじゃないよ。それに好きになったら仕方ないんだよ。わたしだって怒るとヤンキーになるし」


「見たことねえよそんなひなた」


「悠真が大人でわたしが怒ることなかったもん、いつも折れてくれてた、わたしを大人にしてくれたのは悠真だよ」


「……、俺を救ってくれたのもひなただよ」


「…憎しみだけ残らなくてよかった。そうなったら絶対後悔してた、だって、幸せだった時間はちゃんとあるもん、忘れず大切にしたいもん」


悠真の瞳がゆらゆら揺れて。


わたしの名前を呼びたい。


抱き締めたい。


離れたくない。


そう訴えかける。


でも、その手をとることは出来ないよ。

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