第27話

一線を越して体は睡魔と闘うのに、頭の中は冷静で、これからのことをどうしようかとどんどん不安が大きくなっていた。


店長との関係が大きく変わってしまうのか。


恵里さんとの今後の付き合い方。


そして、私と店長の関係をもし悠真が知ってしまったら、どうすべきなんだろう。


店長と付き合える可能性はゼロだ。


店長自身わたしと付き合うつもりはないだろう。


わたしが店長をこのまま好きでも不毛。


でも、好きな人の手を振りほどく勇気は私にない。


求められば体を重ねてしまうのが女の本音だ。


わたしはとことん男運と見る目がないなー…。




「俺と関係を持ったこと、後悔してるか?」


「してないよ。店長は?」


「しないしこれからも絶対後悔しない。もっと早くこうしたかった。ひなたは知らないうちに人の心に入りこむから、ほっとくと色んな男に捕まってそうで怖い」


「なにそれ」


「笑いごとじゃねえから。俺はそれで見事にひなたに捕まったんだよ」


違うよ。


店長に捕まったのは私だよ。


私を捕まえたのは店長なんだ。




「実蔵に好きな人が出来たら手放してやるよ」


「え、……今のわたしには好きな人がいないってことですか??」


「今のひなたの好きな奴は俺でしょ」


どこから来るか分かんないほどの、自信を持った店長の台詞に嬉しそうな笑顔が、店長をほんとに好きだって自覚させた。












店長のマルボロの匂いが鼻を掠めた。



一瞬にしてわたしの記憶は2年前に戻される。


タバコなんてどれも同じ匂いだって思ったのに、マルボロは少し甘い匂いに感じた。


とっさに後ろを振り返ったけど、わたしとすれ違ったのは知らない男性だった。


もう戻らない、忘れる。


そう決めて離れたのに。


わたしも今、店長を忘れられなくて苦しんでるのかもしれない。




ーーまた、自分の気持ちを見失った

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