第26話

抱きしめる私をそのまま引きずって、寝室に続く扉を開く。


急に背中で開いた扉に体が倒れこまないように踏ん張りながら、店長が誘導するまま寝室の中を進んだ。


背後にベッドを確認できたときには店長に担がれ、思いっきりベッドに投げ落とされていた。


「うわっ…!っ、店長乱暴です!」



文句をいうために立ったままの店長を見上げれば、上に着ていたTシャツを脱ぐ途中で、引き締まった腹筋に目を奪われた。


こっちに視線を向ける店長の目はすでに熱を含んでいて。


もう逃れられない。


傷つく覚悟を小さく胸に刻んだ。


わたしの上にゆっくり覆いかぶさる店長に「ゴム、あります?」と再確認すると、「ムードって知ってるひなちゃん」と諭された。



知っているけど、最初に約束した通りゴムを付けずにやるなんて絶対嫌。


目線で訴えるわたしに、ベッドの傍にある棚の引き出しから未開封のゴムの箱を取り出し私のおでこに落とした。



「痛っ!」


「開けて準備しとけよ」


ニヤッと意地の悪い笑顔を見せると、見た目と裏腹な温かい指を服の裾から滑りこませる。


素直に店長の言うとおりにゴムの箱のフィルムを外して、今日使う分のゴムを1つ用意し、ベッドサイドにおいた。


店長の指は楽しそうにわたしの肌を滑り、服も下着もそのままだった。


店長が満足するまで自由に肌を滑る指をそのままに、ムズ痒い快感を必死に逃がした。


やっと満足したのか背中に右手を回し、プチン…慣れた手つきでブラのホックを外した。



そこからはもう焦らすことなく私の体を快楽へと導いた。


だんだん上がる息を必死に抑えて耐える中、店長が私に指示を出しながら着ているシフォンブラウスを脱がした。


とっくに外された下着も一緒に脱がされたので私の上半身を隠すものはなかった。


電気は消えているのにカーテンの向こうから見える日差しが部屋の視界を明るく見せた。




「……なにこれ」




恥ずかしさから自然と隠した腕さえも店長は躊躇なくベッドへと抑えつけた。


すると、昨日も付けられた悠真のキスマークが胸にいくつか残っていた。



「この2つはまだ新しい感じだけど?」


意地悪く笑う店長を、快感で滲んだ涙が溜まる瞳で睨む。


「”もう別れた”んじゃなかったっけ?」



「店長と一緒で、わたしの中でも悠真がいちばんのままなんです。お互い様ですよね」


「……あんまり挑発すると痕残すぞ」


「っ……!!」



店長に抑えつけられてる腕をほどこうと必死に抵抗するけど、店長はそれを許さない。



びくともしない力に違う意味での涙が浮かぶ。


「残さねえよ、痕を残したら、ひなたは俺の前からいなくなるだろ?……傍にいてほしいんだ、お前が本気で嫌がることはしないから」


そう呟く店長を見上げている間に重なるキスは、とてもとても優しかった。



唯一このキスだけが、この後の行為でいちばん優しいものだったかもしれない。










店長はちゃんと避妊してくれた。


そのことがとても嬉しくて、最低な考えだけど恵里さんより上の立場になれた気がした。









店長に抱かれる腕の中で、今日出るはずだった講義を思い浮かべ、次回は絶対に出ようと強く決意した。


今はこの腕から逃れず、与えられる快楽に支配されたい。


そう思った。





「店長…腰痛い、立てない、泣きそう」



「体力ねえなー俺より6つも若いくせに」



「おじさんのくせに中学生並みの体力と性欲をお持ちなんですね。痛っ!!」



ベッドにうつ伏せに寝たまま起き上がれない私の隣で煙草を吸っていた店長は、おじさんという言葉が気に食わず私を空いている右手で叩いた。



「暴力反対です」



「ひなたはいい加減学習しろよ」



涼しい顔で人を見降ろす最低な店長に何を言っても無駄と学習したわたしは、顔の向きを店長のいない反対に変えた。



行為後のけだるさが自然とわたしの瞼を閉じようとする。


店長の長い指が私の髪に触れ、優しく撫でるように指を通した。



「ひなたはヤッたあと眠くなんの?」



「だいたいは……。店長はした後煙草を吸いたくなる人?」


「ヤッた後に限らず煙草吸ってないと落ち着かないかな」


「店長の死因は肺がんですかね」


「じゃあ、死ぬ前にひなたとやりまくっておこうかな」


「最低最低最低!!」


ベッドの上でジタバタする私を見て、店長は楽しそうに笑った。

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