1滴の滴が少しずつ/引き寄せられる気持ち

第28話

途中からでも大学の講義を受けようと思う気持ちはあったのに、徐々に強くなる睡魔に耐えきれず、わたしはそのまま店長のベッドで寝てしまった。


夢と現実を行き来しているような眠りの入り口で、わたしの頭を優しく撫でる店長の温もりを感じた。


その手にすごく安心できて、ふっと意識が途切れるように眠りへと入り込んだ。


自分が思う以上に昨日はショックなことが続いたのかな?


睡眠はとれていたはずなのに、わたしは死んだようにくまっすり眠った。


次に目を覚ましたときは、夕焼けが少しだけ顔を除かせる時間帯だった。


しかも夕焼けは沈む直前の少しだけで、もう遅い時間だとわたしに知らせる暗さだった。



「……っ!やばい!!」


悠真が昨日泊まったことが頭をよぎり、荷物を取りにもう一度来ることを思い出す。


急いで帰られないと悠真を待たせる!


隣にいたはずの店長はもういなくて、わたしは急いでベッドから降り散らばった洋服を広いながら着ていった。


持ってきたリュックはリビングだ!


寝室を出てリビングに向かうと、ソファーに腕を組んで座る店長の姿が見えた。


店長の目の前にはコーヒーが置かれてて、眠るつもりはなかったみたいけど今は夢の中。


整った顔の寝顔は見惚れるほどきれいで、帰ることを躊躇する気持ちを抑え込み、洗面所で軽くメイクを直して部屋を出た。


スマホを取り出すと、恵里さんから昨日の食事についてのお礼と次のお誘いラインと、悠真からの着信が何件かあった。


急いで着信履歴から悠真にかける。


電話は2コールぐらいで繋がり、悠真の心配する声で名前を呼ばれた。


「ひな!?」


「悠真ごめん、リュックに入れっぱなしで電話気づかなくて」


「……今どこ?もうすぐ帰ってくるの?」


悠真がほっと息をついたのがわかった。


「もうすぐ着くよ!近くまで来た!あと10分ぐらいかな?」


「それもうすぐじゃねえよ…」


「えー?すぐだよ!」


「もう会えると思って喜んじゃったじゃん、ひなた、……早く会いてえよ」


「……っ、」


わたしはその声に返す言葉が浮かばなかった。


終わった恋なのに、て、どこかで聞いたことある曲が頭に流れた。


悠真とはもう別れている。


しかも、すごい喧嘩して辛い気持ちで別れたんだ。


悠真のことすごい好きだった。


好きだったからそこ続けることができず、別れることを選んだんだ。


なのに、なんで今わたしは悠真を受け入れているんだろう。


悠真のために急いで帰ってるんだろう。


店長にとってもわたしは都合のいい女で、悠真にとっても今のわたしは同じ立場?


だって、もう別れているのに。


わたしはもう悠真の彼女じゃないのに。

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