11月

店長と私。

第21話

悠真は朝になると、用意していた制服に着替えて高校に向かった。


着替えの荷物などは帰りに取りにくるらしい。


わたしも家の片づけなどを済ませて、大学に行くための準備を始めた。


ずっと着信ランプを点滅させるスマホを、手に取る勇気がなかった。


このまま無視をしてしまいたい。


だけど、明日からもバイトがある。


まだ始めたばかりのバイトだから、大学3年が終わるまでは続けたいと思っていた。


ならば、店長とこれ以上近くなるのも険悪になるのも避けたい。


時計でまだ時間があることを確認し、スマホのロックを解除した。


着信履歴の一番上にあった店長の番号へと電話をかける。


何コールか鳴らすが出る様子はなく切ったほうがいいかな?って思うんだけど、大学にいるときに折り返しの電話が来ても出ることが出来ない。


あと3コールで諦めようと考えたときに、ブツと繋がる音がなり「はい…」と寝起きで機嫌の悪い声が聞こえた。


「あ、もしもし店長?おはようございます、実蔵です」


「……おせえよ。お前らどんだけ女子会やってんの」


「すみません、昨日11時ごろには終わったんですけど、はしゃぎ過ぎちゃって帰宅してからすぐに寝ちゃって」


「楽しかった?恵里との食事会」


私が恵里さんから話を聞いたことをわかっているのか、店長は隠すことなく「恵里」と呼んだ。


「楽しかったです。自分を棚に上げて女子を束縛する男子の話で盛り上がりました」


「朝からケンカ売ってんのか実蔵」


心当たりがあるらしい店長が、不機嫌オーラ全開で返事を返してきた。


「電話出来なくてすみません、昨日寝れました?」


「誰かさんのせいで寝れなかったよ」


「恵里さんに連絡しましょうか?」


「お前のせいだよ!ったく…、で、今から会えんの?」


「あとちょっとで大学行かないといけません」


「何時から?」


「えっと…」


講義が始まる時間を伝えると、「その時間までに送ってやるから、会えない?」と店長にお願いされた。


昨日の電話もすっぽかしたから、無理です!と断ることはできなくて、送ってもらえるなら時間に余裕が出来るし、「わかりました」と会うことにした。


「迎えに行く、どこまで行けばいい?」


「でも、店長寝起きですよね?」


「……」


「家まで行きますよ。わたしんちからそんなに離れてないんですよね?」


「目印になるところまで迎えに行くわ。詳しい住所はラインするから、悪いが頼むわ」


「大丈夫です。店長も帰り責任もって送ってくださいね」


「ん、あとでな」


電話を切ってすぐに店長から住所が書かれたラインが送られてきた。


覚えるように住所に目を通して、家を出る前に戸締りの確認し、大学用のリュックを背負って店長の家へと向かった。



店長も私と同じように1人暮らしをしていた。


ということは連れ込み放題だし、店長のマンションで2人はセックスしてたのかな。



目印になるコンビニの前で、ジーパンにTシャツ、大きめのパーカーを羽織った店長が煙草を吸いながら座りこんでた。


本当にヤンキーだったんじゃないかと思うほどのオーラをまとっていて、昨日の件で殴られないかと一瞬怖くなった。


俯き気味だった視線が上にあがって大きな瞳が私を捉えた。


「実蔵、来てんなら声かけろよ」


吸っていた煙草を灰皿に捨て、目にかかる前髪をうっとおしそうに払いながらこっちに歩いてきた。


普段店長は前髪をピンで留めている。仕事ではなく何もセットしてない前髪は思ったよりも長かった。


「ヤンキーみたいで声を掛けれなかったんです」


「そこは嘘でもイケメン過ぎてって言えねえのかよ」


反論したかったけど、無造作に出された右手に固まって言葉が出なかった。


これは、手を繋げってこと?


真意が分からず店長を見上げると、ふわっと切なげな表情でほほ笑むと、私の左手を掴んで歩きだした。


「……店長って体温高いですね」


意外だった。


冷たいと思っていた店長の手は温かくて、細くて長いと思っていた指は意外にも優しかった。


悠真と同じぐらいある大きさだ。



身長は若干店長の方が大きいけど、悠真はこれからもっと伸びるのかもしれない。

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