第16話

「お腹空いたね!今日は思う存分食べよう!」


「やったー!」


恵里さんに続いて私も車を降りる。


「何食べようかな!?」


「ここピザの食べ放題もあるんだよ」


「え、本当!?」


恵里さんにくっつきながら入口へと向かう。


恵里さんってすごく落ち着。


安心感があって、なんだか店長やめぐさんと違った年齢の落ち着きがある。


入り口を抜けるとボーイさんがすぐに出迎えてくれて、「予約している水沢です」とスマートに恵里さんが対応してくれた。


中に案内されると、少し照明が落ちた店内に洞窟のような落ち着いた個室がいくつもあり、部屋の中から見えるランプの光が店内の雰囲気をより盛り上げていた。


「恵里さん素敵ですね!絶対カップルが盛り上がりますよね」


「値段もそんなに高くないから、ひなも気に行ったら誰かと来てね」


ぱっと浮かんだのは悠真の顔で、瞬時に頭をよぎったのは店長じゃなくてほっとした自分がいた。


ボーイさんがメニューを持ってきてくれて、恵里さんとピザ食べ放題のメニューを選択して、お互いのメインを頼んだ。


飲み物を選んで戻った頃には前菜のサラダが届いていて、食べ始めることにした。


「恵里さん!サラダおいしい~!」


「本当?よかった!メインもピザもおいしいよ~!」


「恵里さんとご飯に来れてよかった~ 」


サラダを食べ終わるタイミングでピザが運ばれてきて、好きなものがあったらお皿に乗せてくれるシステムだった。


食べながら会話を楽しむのは女子の特徴。


大学の話から今のバイトの話しまで。


恵里さんとお互いのことを話しながら食事を楽しむ。


だけど、恵里さんが本当に話したいだろう話に私から触れることが出来なかった。


恵里さんが話したくないから聞くことではない、そう思っている。


店長がさっきの電話で言った言葉も頭に引っかかって、聞いたら店長と元の関係を保てない気がしていた。


「ひなが最近別れた元彼の話って聞いても大丈夫なやつ?」


「元彼ですか?大丈夫ですよ。えと…最初に別れたのは7月、しかも私の誕生日の次の日だったんです」


「え、まじで!誕生日の次の日に別れたの?」


「私の誕生日の次の日に別れて、その次の日は付き合った記念日だったんです。誕生日と記念日の間で別れたんです。もう最悪ですよ」


笑えるだけの余裕を取り戻していた私はメインのパスタを口に運ぶ。


でも、恵里さんは衝撃を受けたみたいで、少し間手が止まった。


「……辛かったね」


「こうやって笑えるようになるまで時間がかかりました。前日はあんなに幸せだったのにって、何度も思い出して悲しくなりました」


「なんで、別れたの?」


「……相手、高校生なんです。今高校3年生で、私も彼も結構本気で結婚とか同棲とか考えていたんです。別れた今はそれも恥ずかしくて仕方ないんですが、……本当に大好きで、たった1回の浮気でも許すことができなくて、私から別れを告げたんです」


「浮気、していたの?」


「してました、ばっちり最後まで。もう本当、ああ仕方ないんだって思いました。相手は高校生でまだまだ色んな出会いがあって、私なんかいつか足枷になるんだって」


「許すってことは難しいけど、別れない選択肢はなかったの?」


「大好きな彼をこのまま疑いながら一緒にいるなんて嫌だって思ったんです。どこかで疑う気持ちは残るし、それを相手に抱いてそばにいるなんて辛すぎる」


「……そう、だよね」


「本当はそのまま連絡を取らないつもりだったんですけど、悠真はそれを受け入れてくれなくて、今も関係が続いてはいます。10月の上旬に大きなケンカをして、今度こそちゃんと別れたつもりだったんだけど、会うとやっぱり好きで受け入れちゃうのが現状です」


「元彼は今でもひなが好きなんだね」


「そうだといいな…とは思います。実際はただの執着な気がしてます」


「……複雑、だね」


「恵里さんは?」


俯いていた恵里さんがパッと顔を上げる。


私と目を合わせた恵里さんは少し泣いているように瞳が揺れていた。


「恵里さん…は、まだ店長が好きですか?」


確信していた、恵里さんはまだ店長が好きだって。


だけど、恵里さんがそれを認める気がしなくて、あえて疑問形で聞いた。


恵里さんは答えなかった。


恵里さんが今付き合っている彼氏も本当に好きで一緒にいると思う。


真剣だと思う。


だけど、店長はきっと特別な存在で、上手に処理するには大きすぎる存在なんだ。

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