第15話

店長、今日はなんか変だよ。


いつもの店長とちがう感じがちょっと嫌。


調子が狂って、どうしたらいいかわかんなくなる。


「俺はそんなに強くねえよ。これから恵里の話を聞いて、実蔵が俺を軽蔑して見たらどうしようって怖くなる」


「店長だったら勝手にしろって突き放すんじゃないんですか?……お前が見て判断したものが真実だって」


「……本来の俺だったらそうだよな」


「なんでそんな弱気なんですか?店長は恵里さんに何をしたんですか?」


「……実蔵、会いてぇよ」


「無理です、恵里さんとご飯に行くんです。会いたいなら店長が来たらどうですか?」


「お前気が強すぎ、仮にもバイト先の店長だって言ったろーが」


「今はプライベートの桐山コウなんじゃないんですか?」


「……終わったら会ってくんねえ?」


「何時に終わるかわかんないですよ?」


「それでもいいよ。電話待ってるから」


そこで電話は切れた。店長は私の返事を聞かずに切った。


上に着信を知らせるメッセージがたくさんあって、急いで恵里さんに折り返しの電話をかけた。


「……恵里さん!?ごめんなさい!友だちから電話来ちゃって…」


『大丈夫だよ。もうすぐひなんち近くに着くんだけど、外に出て来れる?』


「大丈夫です!外で待ってますね!」


恵里さんとの電話を切って、少しの間その場でぼーっと宙を眺めた。


店長の泣きそうな声が頭の上をぐるぐる回ってた。


「終わったら会ってくんねえ?」


店長は私と会ってどうしたいんだろう。


なんで泣きそうだったんだろう?


初めて見た店長の触れていけない部分に、戸惑いが隠せなかった。


「これから恵里さんと会うって言ったのに、惑わせないでよバカ」


私の悪態は誰の耳に届くことなく、空気の中に消えて行った。



恵里さんがもうすぐ着くと言っていたので、用意していたリュックを背負ってマンションのカギを閉めた。


下に降りている途中で恵里さんらしき車が見えて、急いで階段を駆け下りて女性らしい車にかけよった。


「恵里さん!?」


「うお!びっくりしたー!お待たせ、ごめんね待たせちゃって」


「大丈夫です!お仕事お疲れ様です!…乗ってもいいですか?」


「いいよおいで」


恵里さんはふんわり可愛い笑顔を見せてくれて、運転席から助手席の扉を開けてくれた。


恵里さんの好意に甘えて助手席に乗り込むと、恵里さんのような甘く可愛い匂いが鼻を掠めた。


お菓子のような甘くておいしそうな匂いは恵里さんの香水とおなじ香りだった。


本当に恵里さんはどれも女性らしくて素敵だと思う。


車の中の小物だってかわいいし女子力の高さがうかがえる。


わたしの車なんてシンプル過ぎるしぬいぐるみや可愛い女子グッズなんて一個もない。


恵里さん見習って頑張ってみようかな。


海外女性アーティストのアルバムが流れる車はすいすいと進み、恵里さんのおすすめパスタ店の駐車場へと入っていった。


「そういえばこの曲店長の着信音ですよ」


ロングヘアーにかわいい顔が特徴の海外女性アーティスト、MVも曲調も歌詞もかわいいこの曲は、よく鳴っている店長の着信音だ。


「げっ…あいつの着信音これなの?」


「電話で設定しているみたいで、よく頻繁になってますよ」


「……そうなんだ」


あ…って思った。


空気読まなかった。


恵里さんの悲しい横顔を見てすごく申し訳なくなった。


なんで店長は気づかないんだろう。


笑顔が似合う恵里さんがふいに見えるこんな表情に。


泣きそうな顔なんて似合わないのに、じぶんのせいでこんな顔をしていることに、あの人が気づいてないはずがないのに。

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