2人の過去

第14話

朝見ると一言「りょーかい」とだけ入っていた店長からのライン。


時刻は深夜3時と遅い時間で、完全に夜型生活なんだと思った。


今日は1限から授業があったので、洗濯物や朝の掃除を簡単に済ませ大学に向かった。


今日の恵里さんとの約束は18時から。


家の近くまで迎えに来てくれるみたいで、わたしはそれまでに家のことを片づけてすぐに出かけるように準備しておく。


昨日みたいに悠真が来ちゃうとよくに負けてしまう気がして、学校に行っている時間だけどもラインをいれることにした。




”今日は夜から先輩と食事に行くから来ちゃだめです。”



送ったラインはすぐに既読が付いたので、スマホをしまおうと思ったら電話が来た。


店長のこともあり、一応ディスプレイを確認すると悠真からだった。


「悠真!?今もう学校じゃないの?」


「今日は振り替え休日で休みだったんだよ。てか、先輩って誰?男?」


「……ちがうよ、女の人」


別れた相手でも、悠真がこうやって隠しもせず妬いてくれるのは嬉しくて、自分がまだ悠真に想われているんだと自惚れさせた。


「男ばっかだって言ってたじゃん」


「女の人だってもちろんいるよ。今日ご飯に行く人は前に働いてた先輩で、昨日お店に遊びに来てた縁でご飯に行くことになったの」


「何時に帰ってくんの?」


「うーん、わかんない。まだどこに食べに行くかも決まってなくて、とりあえず18時に行く約束になってて」


「なあ、俺も付いていきたいって言ったら怒る?」


「それはダメでしょ絶対だめ、……今までそんなこと言ったことないのにどうしたの?」


「……なんでもない。今日いつ頃なら連絡してもいい?」


「えっと…」


歩きながらスケジュール帳を開いて今日の空く時間を連絡する。


悠真は私よりも第六感の働く人だった。


わたし以上に敏感に気づいて、予防線を作りたかったのかもしれない。


思い返せばこうやって引き返すタイミングだって、選択するチャンスだってたくさんあった。


あんなに辛い思いをする恋に飲まれることなんて、本当はなかったんだ。






約束の時間の10分前に、恵里さんから仕事で送れる連絡が入った。


「恵里さんお仕事急がしそうだな…」


昨日会った印象もキャリアウーマンって感じだった。


連絡が来たらすぐに行けるように、小説を読みながら待機することにした。


今ハマっている小説を読むために本棚に移動すると、普段鳴らないスマホが着信音を知らせた。


「はいもしもし、恵里さん?」


「…お前はまたディスプレイを確認しなかったのかよ」


「……店長?」


これまた珍しい人からの着信だった。


「普段着信なんてないんですよ。今日これから恵里さんとご飯に行く予定なので、仕事終わった連絡が来たのかと思って」


「俺との約束断って水沢さんとご飯に行くの?」


「恵里さんと行けるなんてそうそうないと思うし、店長はバイトで顔合わせてるじゃないですか。しかも、あまり店長と仲良くするのは、恵里さんが嫌だと思います」


「、…なんで?水沢さんから何か聞いたの?」


「……昔、ちょっと関係があったことは聞きました」


「恵里は今彼氏いるよ。たまにお店に連れてきてる。俺に未練なんかねえよ」


「それは、妬かせたいだけとかじゃないんですか?」


「だったら逆効果だ。俺はそんな女に興味を持たない」


ばっさり言いきる店長にやっぱり冷たい印象を受けた。


「今の店長は素の桐山さんですか?」


「実蔵はどう思う?」


「素の店長はちょっぴり怖いです、冷たいというか、はっきりしているところが」


「ははっ。なるべく気をつけるよ。今日ドタキャンした約束、今度ちゃんと埋め合わせしろよ?」


「あ!店長今日来ます?」


「行かねえ。女子トークに入り込む勇気ないわ。今日はどうせ俺の悪口言いまくるんだろ?」


店長は喉の奥を鳴らして楽しそうに笑う。


「日頃の行いが今日の話題を左右しますね」


「実蔵は恵里の味方か?」


さっきから店長の話は核心をついてこない。


遠まわしな言い方で私に何かを求めている気がした。


「私はか弱い女性の味方です。店長の毒牙からかわいい女性を守ります」


「俺のことは守ってくれないの?」


「店長は強いから大丈夫です」

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