第12話

恵里さんは、今でも店長が好きなんだ。


これは終わった話じゃなく、今も気持ちが続いているんだ。


「あいつすぐ女の子に手を出すから、ひなも気をつけてね」


「私ですか!?大丈夫ですよ!最近失恋したばっかだし、当分恋愛なんて考えられないです」


「……あいつのことはどう思ってる?」


「女にだらしない人だと思っています。仕事している店長はかっこいいと思うけど、プライベートはだらしなくて最低ですね」


「ははっ!ひなははっきり言うタイプだね。あとで怒られるよ?」


「いっつも怒られてます。へこんじゃいます。恵里さん助けてください~」


「アホ店に用事があってここに来ることもあるから、その時は庇ってあげるよ」


「ありがとうございます!恵里さん番号交換しませんか?」


素敵な女性だと思った。


店長はなんで、恵里さんを彼女にしなかったんだろう。


店長のめちゃめちゃ狭いストライクゾーンをクリアする見た目を持った恵里さんで、性格も大人で人懐っこさがギャップ萌えでかわいいと思うのに。


なんでだろう?


この2人の間にあった関係はまだ分からないけど、関係を持っていたのに名前を呼びあわない理由がそこにあるのかもしれない。


もしかしたら、店長がお店の子に手を出さないか心配して見に来てるかな…なんてね。


「仕事はどう、慣れた?」


「お店が混んでくるとテンパって来るけど、今のところ大丈夫です!」


「わたしも前にここで働いてたから、仕事で悩んだときもよかったら頼って。相談に乗るから」


「ありがとうございます」









今日は休日出勤だったから、いつもより早い時間で上がることが出来た。


恵里さんが働いてたころから蔵永くんたちはいたみたいで、懐かしそうに話をしていた。


蔵永くんってパッと見怖い印象だけど、笑うと可愛いし顔はイケメンだし、髪の毛切ったほうが絶対いいと思うのに。


わたしはドジを踏むことが多いから怒られてばっかだけど、恵里さんと話をする蔵永くんはよく笑う。


恵里さんと話したばかりで、なんとなく店長と親しくするのは悪いことのように感じていた。


明日誘われていた食事も断ろう。


きっと恵里さんが知ったら良い気はしないと思う。


わたしも好意があるのに恵里さんに誤解させるには嫌だ。


店長だってそれを望まないと思う。


上がりの挨拶を皆にして、いつも通り裏口から帰ることにした。

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