第10話

バイト先の裏口を開けていつも通り中に入ると、私服のままスマホをいじる店長が煙草を吸いながら座っていた。


「おはようございます」


「ん?ああ、おはよう。今日悪いな」


「いえいえ。明日ご馳走してもらえるのでラッキーです」


簡単な挨拶を済ませて更衣室として使っているバックヤードに入る。


シャワーを浴びれなかったけど、出来る限りで身なりはきれいにしてきたつもり。


それでも少しバクバクするのはさっきの行為の興奮が抜けてくれないからかもしれない。




「実蔵」





―――びくっ…!



着替えている最中に声をかけることなんて滅多になかった店長に名前を呼ばれて、一瞬焦った。


まだ着替えている途中なので、脱いだばかりのTシャツで胸元を隠して返事をした。


「はい!なにか取るものあったんですか!?」


更衣室として使っているバックヤードはお店で使う常備品のストックなども置いてある。


急ぎで必要なものがあるんじゃないかと声をかけたけど、そういうわけではないらしい。


「悠真って元彼の名前?」


「ああ…そうです。いつもの癖が抜けなくて、勘違いしちゃったんですよね。店長はどうでした?めぐさんに連絡しました」


「相変わらず音信不通」


「なにかあったとか、そういう心配は大丈夫ですか?」



「ピンピンしているとは思うよ。多分、相手は別れたいと思うんだけど、俺から金を借りてるから別れ方を考えてんのかな」


「え…、店長が今までやった行いの天罰が今来てるんですか?」


「扉開けんぞ」


「ごめんなさいすみません!!」


がチャガチャドアノブを回す店長に、謝罪を繰り返しながら必死に抵抗をする。


やっと着替え終わって表に出るころには、いつも以上に体力を消耗していた。


今日めぐさんは18時からの出勤らしい。


なので、その間は私と店長の2人でお店を回していく。


開店準備を進めて17時を過ぎた頃、裏口の扉が開く音が聞こえた。


すっかりめぐさんに懐いていた私は裏口に飛んでったんだけど、そこから出てきた女性は、めぐさんとは正反対な色気をまとった巻髪のきれいなお姉さんだった。


ててて店長の本命彼女2!?


「なに、新しく入った子?」


「あ!はい!10月からお世話になっている実蔵ひなたです」


ピンヒールがよく似合う美脚に豊満なバストから繋がる締まったくびれ。


スーツがよりスタイルの良さを引き立てていた。


顔もきっちりメイクのため美人の印象が強いが、系統はかわいい顔立ちだ。


「あほ店いる?」


「アホ店長ですか!?今キッチンで下準備してます」


「って聞こえてんぞ実蔵、誰がアホ店長だって!?」


「ひいい!!」


奥の方で準備をしていると思ったのに、すぐ後ろから店長の声が聞こえてびくっと飛び上がった。


「水沢さんなに?今日来る日だっけ?」


「昼間あんたのケータイに連絡いれたのにがん無視されたんですよ」


「え?電話したの?いつ」


「午後三時」


「寝てるから気づかねーよ」


「だと思ったけども、普通折り返しの電話するでしょ!?」


「用事があればまたかけるかこっち来ると思ったから」


「だから今日来たんしょーが!!」


テンポのいい会話が目の前で飛び交う。


そこにやっと本物のめぐさんが登場。


「おはよ~って恵里菜なにしてんの?」


「めぐさんおはようございます!!」


「あ、ひなちゃんおはよう~。で、結構賑やかにやってたみたいだけど?」


めぐさんは肩にかけていた荷物を、バックヤードの腰までの高さの棚に置きながら2人を見た。


下準備が済んだらしい店長はいつもの定位置に腰かけ煙草を吸っていて、近くのイスに腰掛けセクシーな足をおしみなく組んで睨む恵里菜さんがいた。


わたしはというと、巻きこまれたら危険だと瞬時にさとり、お店に繋がる扉の向こう側、ほとんどお店に入った場所から眺めていた。

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