第8話

わたしは大学進学と同時に1人暮らしを始めていた。


今日は出勤になったということで、夕飯代わりに持っておくお弁当を用意したり洗濯物を畳んだりと、出勤までの間は家のことをバタバタとやっていた。


お店までは車で15分。


16時半に出て行けば余裕な範囲で、まだ15時を過ぎたあたりで余裕があった。


あれから悠真から連絡はなくて、今は学校に行っている時間だし、昨日は寂しくて電話しちゃっただけかもしれない。


そう思っていたのに…家のことをしていたわたしに、インターホンが来客を教えた。


「……悠真、」


確認してないけど、悠真が来た気がした。





確認せず扉を開けたわたしに、悠真は困ったような嬉しいような複雑な顔でほほ笑んだ。


「ちゃんと確認してから出ろっていったろ?」


「ゆ…悠真だってわかった、から…」


悠真と会ったのは最後に別れたあの時以来だ、



変わらない悠真の優しい雰囲気と落ち着いた茶色の髪色、ちょっと崩した制服に耳についたおそろいのピアス。


涙で滲んでいくのに、悠真が笑いかけてくれているのだけはわかった。


「ゆ…うま…悠真」


名前を呼ぶわたしに苦しそうに眉を寄せた悠真は、優しく腕の中に閉じ込め玄関にカギをかけた。
















「ふっ…んんっ…あ…」



ベッドで悠真の熱に侵される中、店長の顔がなぜかよぎった。


なんでだろ、別にやましいことなんてないのに。


時間だって全然間に合うし、わたしに覆いかぶさる悠真に心が満たされていくのに、どこかで私を呼ぶ声が聞こえた。


「ひな…っひな…」


苦しそうに私を呼ぶ悠真の声にその声はかき消された。


悠真、なんでそんなに泣きそうな顔をするの?


ーーー悠真、悠真、


……悠真がゴムの中に欲を吐きだすと同時に、わたしも絶頂を迎えた。



行為を終えたあとの体は自然と眠りにつく準備を始める。


うとうとする視界の中で、わたしの視線は時計を捉えた。


「あ…え?あ!やばい!寝ちゃだめだ!!」


がばっと起き上がる私に、隣でぐったりしていた悠真もびっくり目を覚ます。


「おいひなた…前見えてんぞ」


「仕方ないじゃん、てかやばいの!今日バイト入ったから16時半には出ないといけない」


床に散らばった服をかき集めながらシャワー室に向かうけど、浴びている時間がないことに気づき、変えれるものは全部替えて仕事用の服に着替えることにした。


メイクも少し治せば済む程度で、このまま普通に支度をする分には間に合う時間帯だ。


「バイト先変えたのなんで?…俺のせい?」


「違うよ!実は就職先決まったの」


「え!?早くね?ひなたまだ三年だろ?」


「うん、だけどおじさんの会社で働けることが決まって、それまでにやっておきたかったバイトやっておこうと思って」


「そんな理由で転職したのかよ」


「大事なことじゃん!会社に入ったらバイトなんで出来なくなるんだもん。バイトで学んだことも勉強になるかもしれないじゃん」


「……今、どこで働いてんの?」


「言わない」


「なんで」


「悠真が焼きもち妬いたら困るから」


「はあ!?男が多いってことか!?」


頭の回転が速い悠真には本当驚かされる。


なにか言いたげにこっちを見る悠真に釘をさす。


「言っておくけど、悠真にとやかく言う資格はないよ!私達はもう別れて他人なんだから」


ぐ…っと傷ついたように顔をゆがめた悠真。


だけど本当のことだから、わたしは気にしてるそぶりを見せずにメイクを簡単に治す。

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