第6話
店長の顔には覚えてないのかよって心の声が出ている。
「実蔵が、カラコンしている目は怖いって顔合わせようとしないから、最近カラコンしてねえんだよ」
「それは…」
店長のカラコンだけでなく、普段見掛けないイケメンだからってこともあったんだけど…店長がそんなに気にしているなんて思わなかった。
「もうカラコンしないんですか?」
「プライベートではするけどね」
「なんでカラコンするようになったんですか?」
先輩たちが掃除や片付けをしている中、小さな声で店長との会話を続ける。
なるべく大きな声を出さないように気をつけていたのに、店長の返答に笑いのツボが刺激された。
「あはははは」
「ばか!でかい声で笑うんじゃねえよ!」
店長が慌てて私の口を両手で押さえるけどもう遅い。
私達がサボってたことが蔵永くんたちにもばれて、キッチン側の窓から顔を出した蔵永くんに「掃除してください!」と怒られた。
「てか実蔵!お前も手を動かせ手を!」
「そんなこと言ったって邪魔する相手がいるから無理ですよ」
蔵永くんの注意を素直に聞けないのは、私の隣に立っているこの人の存在。
口答えはいけないなーなんて思いながら、隣にいる店長を指差した。
店長はなんのその!って態度を崩さず、腕を組んでわたしを見降ろしている。
なんで私がこんな威圧感を感じなきゃいけないの!?
「店長、いくらなんでもこんな色気のないガキに手を出さないで下さいよ」
「な!蔵永くんひどい!」
「ギャーギャーうるさいわ!掃除やれ早く!」
「ぐっ…!」
くそ、もう店長なんか知らん!!
モップを持ち直して掃除を再開した。
そのときの店長の視線の先も考えもわたしは検討が付かなかったけど、少しずつ少しずつ、何かが変わる気配を感じていた。
「まさか…蔵永が、ね」
「店長なにか言いました?」
「ん?…ああ、確かに実蔵には色気が足りねえな~と」
むっかつく!もう無視無視だ!
これ以上掃除の邪魔をするつもりがない店長は、もどってレジ閉めをしに行った。
やっと掃除に集中できる環境になったので、反対の座席スペースの掃除とトイレ掃除を済ませ、キッチンで最後の終礼をして仕事を終えた。
男性陣はバックヤードの手前のスペースで着替えを始め、今日のラストの女性は私だけなので、邪魔にならないように急いで扉の中に入った。
制服から簡単な私服に着替え荷物を持って外に出る。
皆はもう着替えを済ませていて、仕事終わりの一服をしながら雑談を繰り広げていた。
店長は1人ビール瓶の空籠をイスにして座り、蔵永くんたちは地べたに引いた薄い座布団に座って話をしていた。
こういうときの店長はみんなの輪に入らないんだな。
急になりだした私のスマホ、国民的人気アイドルの姉妹グループ、大阪で活躍するアイドルの着信音が鳴り響く。
「おい実蔵!スマホの音ぐらいきっとけや!」
「すみません!お先に失礼します!」
「なんだ?男か~?」
「違いますよ。お疲れ様です!」
雑談を繰り広げる男性陣の間をすり抜けて裏口からお店を出た。
裏口を出てすぐに電話をとった。
「はいもしもし」
従業員駐車場に向かいながら電話の声に応える。
「ひな?あのさ…元気にしてるか?」
「ん、元気だよ。悠真は?」
「元気、かな。でも…」
「うん、ごめん、…今バイト終わったところで帰宅する途中なんだ、運転するから電話、ごめん」
「…ん、わかった、おやすみ」
悠真のおやすみを聞いてから電話を切った。
戻ることは出来ない、終わりにしたんだ、だから。
元彼からの電話は、私をあのときに引き戻した。
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