第5話
「……本当の彼女がいるって言ったら驚く?」
「4人の中に本当の彼女がいるんですか?」
「違う、あれは全員自称彼女」
自称彼女って…店長が思わせぶりなことをしたとか、1回限りでも寝ちゃったとかそういうことがあったと思うんだけどな。
明日の準備を済ませた私は作業台を片づけながら、店長と本物の彼女の話を続けた。
「その自称彼女の話を知ったら本当の彼女は悲しみますよ?」
「連絡こないんだもん」
「店長が自分から連絡すればいいじゃないですか」
「なんかそれって負けた気がしねぇ?」
「しませんよ。連絡したかったら連絡するって当たり前のことじゃないですか?連絡くれた彼氏に負けたななんて思いませんよ。女性はそこまで性格曲がってませんから」
「連絡して出なかったら傷つくじゃん」
「確かに…、でも、出たくないようなことしたんですか?」
「してないはず、多分」
多分ってなんですか。
女性の性格はそこまで曲がってなくても、女性の情報網は広い。
彼女の本命彼女に自称彼女の話が流れることだってあるかもしれない。
そもそも自称彼女をそのままにしておく店長は危険だ。
知れば知るほど残念な人だと思った。
「店長顔は良いのに、…残念です。本命彼女見てみたいです!写めとかないんですか?」
「プリクラならあるよ。見る?」
「店長撮られるの嫌いな人だと思ってました」
「基本は嫌いだね、ほとんど撮らないけどこれは特別」
「なるほど」
店長が本気で惚れている相手だから、嫌いな写真だってプリクラだって撮れるんだ。
後ろのポケットから財布を取り出し、中に閉まってあったプリクラを私に見せてくれた。
プライベートの店長はチャラさに拍車がかかるみたい。
茶色の髪はワックスでセットして、ロングの茶髪のきれいなお姉さんの腰に手を回す店長がいた。
彼女のそばにはめぐ、店長の近くにはコウと書かれていた。
「え?え!めぐさん!?」
「違うわ!よく顔見てみろ!」
「あ…確かに、彼女さん年上ですか?」
「3つ上のバツイチ、子供もいるんだよ」
「店長そういう人に好かれそう」
「…なんで?」
「店長が可愛く見える、時たま頼りになる大人オーラのギャップがたまんない!とかじゃないですか?私も年下好きなんです」
「ほー…」
店長とめぐさんは同い年なんだけど、2人とも周りが羨む童顔で、パッと見わたしとそんなに変わらない見た目なのです。
最初に2人の年齢を聞いたときも度肝を抜いたもん。
店長の3つ上の彼女さんだって、わたしと9つ近くも離れてるなんて想像つかないほどきれいな人だった。
店長は面食い、ボンキュボンのスタイル良い人が好きみたいだ。
「めぐさんに捨てられたら店長やばいですね。面食い、巨乳で細身のモデル体型なんて、探したってそうそういませんよ。店長のストライクゾーンなんてこんなぽっけですよ」
人差し指と親指で5cm幅を作って見せたら、「確かに狭いわ!」とツボに入ったように笑ってた。
いやいや笑いごとじゃないよ。
笑いが止まんない様子の店長を無視して、締めの掃除作業を始めた。
裏のロッカーからモップを持ってきて座敷の掃除から始めていると、笑いが治まった店長が後ろに立っていた。
掃除に対する指導でもくれるのかと思って振り返ったら、真剣な顔をした店長がこっちを見ているだけだった。
照明が落ちた座敷ペースは壁の視覚で皆から見えにくい場所でもあった。
少し見えにくい視界の中で、店長の大きなビー玉のような目が私を捉える。
「店長…、カラコンやめたんですか?」
私を見つめる店長の瞳は、以前まで見ていたグレーではなく素の色になっていた。
「気づくの遅えよ」
「カラコン切れちゃったんですか?」
「アホ!実蔵が怖いって目を合わせねえからだろ」
「え…?」
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