第2話
「新入り?」
「は!はい!実蔵ひなたです、よろしくお願いします」
ヤンキー座りで煙草を吸うお兄さんに私も目線を合わせて挨拶をした。
お兄さんは顔が小さく整った顔立ちなのに、顎髭や伸びっぱなしの髪型でそれが埋もれていた。
第一印象に怖いと思われる容姿なのに、気さくに話しかけてくれるギャップが私の緊張をほぐしてくれた。
「お名前なんて言うんですか?」
お兄さんの名前はとても難しく、綺麗な名前だった。
「蔵永って珍しい名字ですね!名前の感じもかっこいいです」
「お前の名字も珍しいやろ?」
「蔵永さんの出身って関西の方ですか?」
わたしが普段聞いている言葉と少し違うイントネーションが時たまあった。
聞いてみると大学のためにこっちに来ていて、実家は遠くの県だった。
「遠くから来ているんですね。…え?蔵永さんっていくつですか?」
髭と伸び放題の髪の毛でぶっちゃけ自分よりも上だと思っていたけど、大学生ってことは私とそう変わらないはず。
「俺のこといくつだと思ってんだよ」
「えっと…」
「てか、実蔵はいくつ?」
「今21歳」
「なんだ、俺の1個上じゃん」
「え?」
「あ?」
「蔵永さんって、今20歳?」
「どう見ても20歳の好青年だろ」
「…詐欺だ!!」
「ああ!?」
「おーい実蔵さん!今日の復習するよー!って何騒いでんの…」
「店長、こいつまじない!」
風貌がちょい怖兄さんの蔵永さんは身長も高くて、立ちあがると威圧感が半端なかった。
急いで店長の後ろに隠れたけど、店長が細身のせいで半分の隠れることが出来なかった。
なんでこの人はこんなに細いんだ!
怒りの矛先が店長に移る。
「蔵永さん大人っぽいから、てっきり自分よりも年上だと思ってて…」
「実蔵さんより年下で驚いたんだ」
「こんな20歳がいるなんて反則です、わたしに大人っぽさを分けてほしい…」
「ま、蔵永は特殊かな。はい、復習やるよ!こっち来て」
店長は振り返りながら私の腕を自然を掴んで歩きだした。
店長が動くときに微かにマルボロに交じった香水の香りが、大人だ…って一瞬ドキッとした。
だけど、入山さんにべったりの店長を見てたらそんな気持ちふっとんだけどね。
休憩に入る前からも思ってたけど、店長と入山さんは付き合っていると思う、確実に。
わたしに仕事を教えてくれる入山さんに店長が常にひっついていた。
もちろん今も入山さんを挟んだ両隣りにわたしと店長がいる。
「あの、店長と入山さんって付き合っているんですか?」
ほとんど確信していた質問だった。
そうだよって返事が返ってくると思ったのに、2人の反応は意外なものだった。
「違う違う!私と桐山くんは付きあってなくて、他のバイトくんと付き合ってるの!」
「実蔵さん、あいつがいるときに絶対それ言っちゃだめだかんね。あの焼きもち妬きにぶっとばされるから」
「え?入山さんちがう人と付き合ってるんですか?じゃあ店長の片思い!?」
「え、桐山くん私のこと好きなの!?」
「はいはい面白がらない!なんでか皆勘違いするんだよなー」
「こんなべったりしてたら皆そう思いますよ」
話しながらも手を動かしていたので、今日やるべき仕事は勤務時間内に終えることが出来た。
「よし、じゃあ片づけて上がろうか」
「はい!」
仕上げた仕事を片付けて、キッチンやホールに出ている先輩たちに挨拶をして上がることにした。
バックヤードで着替えを済ませて外に出ると、業務用冷蔵庫に寄りかかりながら煙草を加えて座っている店長がいた。
「在庫の確認ですか?」
「おしい。在庫の確認しながら発注書作ってんの」
店長の手の中にはバインダーがあった。
開けたり閉めたりしながら在庫を確認し、数字を用紙に書き込んでいた。
その店長の雰囲気がいつもより少し冷たいものに感じられた。
勤務中の店長はおちゃらけている印象で、入山さんや蔵永くんにいじり倒されていた。
雑談する時間もあって、入山さんはSに見えて実はMやら蔵永くんは見た目通りS気が強いなどの話をした。
そのときに万畳一致で店長はMだって皆が言ったんだけど、わたしの印象は絶対Sだった。
だって、店長はみんなに合わせて演じている気がしたから。
今の店長を見て、よりそれが確信へと変わっていく。
本当の店長は冷たい人間なのかもしれない。
それだったら知らない方がいい、優しく接してくれる店長の方がいい。
そう思うのに、冷たい雰囲気を身にまとう店長に見とれてしまってその場から動けなかった。
「実蔵さんまだ時間大丈夫?」
「え?あ、はい」
「もう少しで確認終わるから、帰る前に連絡先交換してもいい?」
「大丈夫です」
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