第3話
普段とは違う先輩の姿で先生の愛でる姿に、衝撃と衝動が同時に来た。
あんな風に私も愛されたい、求められたい、気持ちを揺さぶられたい。
先輩の特別になりたい。
婚約者がいる上に、年上で、教師で、イケナイ関係なのに、衝動が止められない2人の姿は、私に大きな影響を与える。
今日も目の前に広がる密会から、視線を逸らすことができなかった。
行為が終わった後も、空気に甘い香りと吐息が混じっている気がする。
体力が残っていないのか、心伴い手元で乱れた衣服を整えていく先生の後ろに、開けた制服をそのままに、遠くを見つめる先輩の姿が。
行為後の賢者タイム…というわけではなさそう。
先生の方を向いていない先輩の視線でも、近くにいる先生に意識を向けている気配は感じとれた。
先生はそれを察知する余裕がもう残っていないのか、自分の身なりを整えることに手一杯で、もう少しすれば、準備室の扉を開けに来るだろう。
私は慣れた足取りで、バレないように先生たちの視覚に入る場所に身を隠す。
私の読み通り、準備室の扉を開けて出てきた先生は、何事もなかったように、先ほどの行為の様子を一切感じさせない「先生の表情」で、音楽室を歩いていく。
(先生…)
左手に光る薬指の指輪が光で反射する。
先生は、こういうことをする人ではないと、現場に遭遇した後も、心のどこかで信じられなかった。
それほど、2人の組み合わせは意外すぎて…。
先生の気配と余韻が完全に消えてから、私は立ち上がる。
いつもだったら、先生がいなくなってから、私もそのまま姿を消していた。
今日は、そうしない。
今日の先輩は、確実に私に気づいていた、私に見せつける様に先生を抱いていた。
バレていたんだ…、覗いていたことに。
気づいている、私が知っていることに。
準備室の前まで来て、扉に手をかける。
がらがら…
引きずる音を小さく立てて、準備室の扉を開けた。
中を見れば、乱れた制服を普段どおりの着崩しまで直した先輩がぼーっとした状態で座ってる。
今日の先輩は、様子がおかしい。
「…先輩?」
余韻も匂いも消えた準備室に、私の声は想像以上に大きく響いた。
先輩の目線が、ゆっくりと私に向く。
「…先輩、好きです」
絶対、今じゃない、今じゃないと分かっているけど、言わずに居られない。
「好きです。先輩が好きです。先生じゃなくて…、私を見てください」
先輩はまっすぐに私の目を見たまま、反応をしない。
私の気持ちがまっすぐ先輩に届くように、視線をそらさず見つめ返すしかできない。
反応を見せない先輩に、私はゆっくりと、自分の制服のボタンに手をかけた。
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