第4話

胸元を開けさせて、下着を見せても、先輩の顔色は変わらない。


 着ていたセーターとブラウスを脱いでも、先輩の目は私の瞳から動かず、じっと見つめたまま。


 私は先輩の目の前までいき、膝をついて先輩の目線の高さに合わせる。


「先輩…、私も、先輩としたいです」


(先輩、お願いです…。)


 両手を背中に回して、ブラのホックを外そうとしたとき、先輩が動いて…、私の手を止めた。


「ごめん、…立たない、みたい…。ごめんな」


 笑う先輩の表情が、切なくて、苦しくて…、ごめんは私がいうセリフです。


「ごめ、なさ…」


 私が泣く資格ないのに、私が泣くのはおかしいのに、泣きたいのは、本当は…先輩のはずなのに…。


 両手を覆って顔を隠すけど、手にこぼれる涙がスカートに染みを作って、泣いていることがバレてしまう。


 先輩は、戸惑いながらも、優しい手で、頭を数回、撫でてくれた。


 先輩の手は、予想していたよりも、もっともっと優しくて、この指が愛でるように触れる先生が、羨ましくて羨ましくて羨ましくて、憎く想う。


 この人に愛されたかった、この指に優しく触れられたかった、求められたかった。


 なんとも思っていない私にも、触れる先輩の指は、手は、とても優しい。


 欲しかった、欲しかった、求めても手に入らない先輩の心が、諦められない。


「先輩、わざと…見せつけたんですか…?」


 先輩からの返答はない。


「ごめんなさい…、覗いていた私が言えることじゃなかったです…」


 わかっているのに、駄々をこねているだけだって。


 先輩が私にリスクを冒してまで、自分を諦める様に、優しく突き放す選択をしてくれたのに…。


 どうしたって、求めたって、先輩は、私がほしいものをくれない。


「先輩…、どうしたら、振り向いてくれますか?」


「…俺も、その方法を知りたいよ」


 先輩から返事が来て、思わず顔を上げた。


 手で塞いだ視界が明るくなって、目に飛び込んできたのは、涙を流す先輩の姿。


 ”…俺も、その方法を知りたいよ”


 先輩は、体をいくら重ねても、欲を満たしても、触れることが出来ても、本当にほしいものは手に入らない。


 体を重ねてしまう方が辛いのか、触れることすらできない方が辛いのか。


 先輩にゆっくり腕を伸ばして、抱きしめた。


 先輩は抵抗せずにいてくれるけど、私の背中に腕を回すことはしてくれない。


「好きです…好きです…大好きです…」


 先生に負けないぐらい、胸はある方だし、スタイルだって負けていない。


若さだって勝っているけど、先輩がなんの反応もしないのが、抱きしめた状態でも伝わる。


 気持ちだけは届いて、受け取って、少しでも反応して。


「好きです…、絶対、先生にだって、負けないんだから…」




(手に入らない愛情ほど、欲しくなる。)

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