恋が終わるまで⑨/試着室の秘め事

第38話

「里帆―!穿けたー!裾上げー!」


 はせくんの声が聞こえて、すぐに反応する。


「はい!はい!行きます!!」


 試着室の方に顔を出し、カーテンを開けてわたしを待つはせくんを見つけた。 

 

 はせくんは見た目がほんとにいい。


 背が高いし、筋肉質なスタイルもかっこいいし、顔がガチイケメン。


 本人もそれを自覚しているから、じぶんに似合う服装、髪型がよーーくわかっているし、カーテンから体を出して待つ姿も、絵になるぐらい、かっこよかった。


 望月くんとは真逆な系統で、…はせくんをかっこいいと感じる度に、望月くんの面影が脳裏をちらつく。


「サイズどう?」


「ぴったり」


 そういって服を上げるから、また綺麗な腹筋が視界に映る。


 ほそくて引き締まった筋肉は無駄がない。

   

 どこまで完璧なイケメンなんだ…、ここまでくると、腹が立つ領域かもしれない。


「早くしまって!裾上げの確認をしたいんだけど…、最初はどうしたらいいかな?」


 質問すると、意地悪な顔は真剣な表情に変わり、実際にお客様を想定したやり方でわたしにレクチャーしてくれる。


 どういう風にやりとりをして、どのようにお客様に指示を出して、裾上げの様子を進めていくか。


 はせくんが接客してくれたら、安心するだろうな…という安心感を、わたしは直に感じた。


 はせくんの指導を受けながら、はせくんの希望する長さで固定して、終了。


「よかった…!できた…!はせくん、ありがとう!」


 嬉しくて、笑顔で顔を上げると、優しい表情でわたしを見るはせくんがいた。


 はせくんは、優しいよ、先輩としても、男性としても。


「里帆にお願いしたいのは、試着室の裾上げまで。仕上げは翔さんたち社員が仕上げてくれるから」


「うん、ありがとう」


「試着室の裾上げまで出来るようになれば、もっと売り上げに繋げられるようになるよ。不安だったら、菜子さんたちとやってみてもいいし」


「うん…、菜子さんに、一度やってもらおうかな…」


「うん。菜子さんに頼んでおこう。ヒールを履く想定の裾上げ長さも、覚えた方がいいと思うから」


「なるほど!そっか…、はせくんは色々気づいてくれるね」


「そうだよ。すげーいい男なのに、里帆はその良さが全然わからず、洸なんて面倒くさいエセ聖人野郎に捕まるんだよ」


 調子の乗って望月くんを悪くいうはせくんのほっぺを両手で挟んで反撃しているところに、聞くはずない声が届いた。







「三上さん…?」







「…え、望月、くん」

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