第35話

メイクを直していたら、休憩が終わる時間ぎりぎりに戻ってくることになった。

 

 急いで店舗の中に入ると、先に戻っているはずのはせくんの姿が見えない。


 フロアにいるのは、レジを担当している久保田さんと、接客をしている菜子さん、それと、品出しをしてる望月くん。


 はせくんがちょうど、まだバックヤードにいるのかもしれない。


 意を決して扉を開けると、予想通り、はせくんが長い足を組んでテーブル席に座っていた。


「里帆…、遅い」


「ごめんね、心配かけて。ちょっと時間かかちゃって」


「ギリギリ。今度は余裕もって休憩行こうな」


「うん!」


 急いで荷物をしまって、先に出る準備ができているはせくんに続く。


 扉を開けて待ってくれるはせくんを見上げて、しっかりと、今、言える気持ちを伝える。


「ありがとう、はせくん」


 いつも通りにしてくれて、心配してくれて、優しくしてくれて。


 続けていいた言葉はたくさんあるけど、今はこれだけに留めておくね。


「ずりーな、里帆は」


 そういって笑うはせくんの顏はすごく優しかった。


 ”ちゃんと伝わってる”


 私とはせくんは大丈夫。


 問題は…、私と望月くん。


 覚悟を決めたのに、望月くんは私と顔を合わせることなく、休憩に入った。










 そして、その日のバイトが終わるタイミングで、望月くんが教育係を卒業することを知らされる。


 少しずつ、確実に、今までとは違う関係に向かっていた。


 着地点はどこになるのか、この関係はどんな終わりを迎えるのか。


 もう、戻ることはできないから。

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