第33話

「あれ?はせ、1人で戻ってきたのか?」


 三上さんと2人で休憩に入ったはずなのに、店舗に戻ってきたのは、はせが1人。


 休憩が終わるまでまだ時間があるし、女性はメイク直しとかるから、別々に戻ってくるのかなー…と頭の中で予測を立ててたけど、はせの顔を見た瞬間、思考は吹き飛んだ。


 手に持っていた畳み途中の服を段ボールの中に戻し、はせの腕を掴んでバックヤードまで急いで向かう。


 俺に誘導されるままのはせは、顔を俯かせたまま。


 バックヤードに入った瞬間、俺ははせに向かって問いただした。


「何があった、なんかあったろ!」


 予想以上に自分の声が荒れていた。


 怒っているわけじゃない、心配している。


 こんな姿のはせは見たことない、私生活で何があったとしても、こんな顔で店に出ることはなかった。


「お前、ひどい顔してるぞ…」


「…やばいっすね」


「大人に見えて、亮も年相応ってことだな。…三上さんと何かあった?」


「…洸のこと、大嫌いになりそうです」


「なって当然だよ、なってもいんだよ。亮は、色々我慢しすぎだから」


 バイトも真面目にやってるし、大学の課題だって飄々とやってのけるように見えて、休憩時間にこつこつやっているところも見てきた。


 恋愛でボロボロになるのだって、年相応にあることだし。


 はせの場合は、目の前に好きな女とライバルが常に見える状態で、ライバルは自分の親友でって…地獄絵図でしかない。


 そんな状態でメンタル保って、はせはよく頑張ってる。


 小さく身を縮こまるはせの肩をポンポンと叩く。


「亮は、よくやってる。すごい、いい男だよ」


 三上さんがはせを選んでも後悔しないって断言できるけど、三上さん自身が後悔を残してはせを選んでも、良くない。


 2人が納得して答えを出すまで、苦しいけど、耐えるしかないんだ。


「はせが、最後は勝つといいな」


「…今のところ、勝ち目ゼロですよ。あいつ、ほんとにむかつく」


 はせの最後の言葉に込められた力は強かった。


 本気でムカついていると思う。


 イケメンだし、勉強できるし、三上さんと彼女の間でふらふらしていないときは誠実だし、俺より洸の良さを知っているだろうし、はせ自身も洸が大好きだし。

 

 親友のふらふらしてる情けない姿なんか、すごく悔しいよな。


 こんな状態のはせをどうやって店に戻そうか頭を悩ましていると、タイミング悪くバックヤードの扉が開く。


 開いた扉の向こうから光が入り、店舗側から人が入ってきたことを確認する。


 

(時間的に三上さんかな)


 確認するために、組んだ腕をほどきながら扉側に体を向けると、立っているのは洸だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る