第32話
「望月くんが好き。だから、はせくんの気持ちに応えることは、できない」
私がまっすぐ見つめる目を、はせくんも見つめ返す。
私が怯みそうになるぐらい、まっすぐに、澄んだ目で、傷ついているのか、怒っているのかも、分からない。
純粋で曇りのない瞳が、私を真っすぐ捉えたまま、動かずいた。
「望月くんに誤解されるようなことは、したくない。距離を置いて、接してほしい、です。私もはせくんとしっかり、線引きする。ちゃんとしたい。この恋を、なあなあで終わりにしたくない」
「…、黙ってみてろってこと?」
「はせくんが行動してくれても、私はこれから、はっきりと拒絶する。ちゃんと意思表示する」
「俺がそれで、傷つく分には自己責任ってことだよな」
「うん、…ごめんね。ちゃんとしたい。ちゃんとしたいの」
私のわがままだけど、ちゃんとしたい。
望月くんとの恋を、ちゃんと最後まで全うしたい。
今の自分は本当に嫌いで、はせくんが好きになってくれる要素なんて一つもないから。
「甘えて、たくさん頼って、…最低なことして、ごめんなさい」
頭をしっかり下げて謝罪する。
はせくんは無言のまま、頭を下げる私を少しの間見つめて、席を立つ。
はせくんの行動が気になって顔を上げると、私に背を向けたままレジの方に向かっていて、手には2人分の伝票があった。
急いで追おうとしたけど、はせくんの背中が「来るな」と意思表示しているように見えて、躊躇する。
その間にどんどんはせくんは行ってしまい、中途半端に立ち上がった腰を椅子におろした。
ここはまだ、始まりに過ぎない。
今までの居心地のいい環境のままでは居られない。
覚悟を決めた、気持ちを固めた、向き合うしかない。
最後まで、諦めないって決めたから。
今の時点で、充分、はせくんのことは傷つけた。
今度は、私が傷つく番。
自業自得の最低行為の結果を、しっかりと、受け止める。
今度をどうしていくのか、自分の中でも模索して考える必要があって、今すぐにどうこうしたいとか、考えはない。
ただ、急に思ってしまった、甘えていたくないって。
はせくんの優しさは、私が望月くんのことを諦めて終わった段階が良い。
だって、すごく、はせくんの優しさは身に染みるから。
「…っ」
泣く資格がない私の顔を両手で隠す。
好きになりそうだった、好きになれたら楽だった。
なんで恋は、いつも思い通りにいかないのかな。
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