第31話
「今も翔さんに頼んで、洸から引き離すように連れてきたんだよ…。俺だって、里帆とゆっくりご飯、食べたいからさ」
「…うん、私も、はせくんと休憩に入れて嬉しいよ」
本当に、心から思ったことだったから、素直な気持ちではせくんに微笑んだけど、はせくんはふいっと前を向いてしまった。
手のひらから伝わる温度が、さっきより温かく感じる。
照れているように見えるのに、私の気のせいだよね?
「並んでないみたい、珍しいね」
「すぐ入れるな。メニューは中で決めればいいか」
ちょうどタイミングよく空いているときだったみたいで、すんなり席まで通された。
「お腹すいたー…、どれにしようかな」
向かい合わせで座って、テーブルに用意されたメニューに目を通す。
はせくんがオムライスって似合わない…可愛すぎる…って思ったけど、目の前に運ばれた美味しそうなオムライスを食べる姿は絵になっている。
イケメンなら何を食べさせても映える!って思ってしまった。
「美味しいね」
「里帆と食べるから、より美味しいな」
きれいに上品に食べる手を止めて、まっすぐ私を見つめるはせくんに、隙はない。
いつもこうやって、直球で私の気持ちを揺さぶってくる。
はせくんは自分がイケメンなことを自覚しているし、無駄なくストレートに気持ちを伝えてくれるし、無理強いな絶対にしない。
私が嫌がることや、本気で傷つくことは言わない。
助けてくれる、支えてくれる、そのバランスもすごく上手い。
この優しさにいつまでも甘えることができれば、私は辛くならずに恋を続けることができるかもしれない。
でも、そんなんで、本当に望月くんに恋をしてるって言える?
楽な方に甘えて逃げて、はせくんの優しさに守られながら、望月くんに好意を向けて、彼女がいる存在を憎く感じて…、望月くんを責める、そんな恋を続けたいわけじゃない。
全力で向かって、それでもだめで、気持ちにけじめがついて、はせくんとのことを考えるならいいと思う。
今の私は、自分が嫌いな最低な女になっている。
そうなりたくて、恋をしたわけじゃない。
望月くんを好きになった、恋をした、自分を嫌いになりたくない。
「はせくん」
自分の発した声からも、決意を感じた。
はせくんも、食べる手を止めて、私を見つめる。
その顔は、何かを悟ったように、すっと真面目な表情になっていて…、いつも、はせくんは私より先に、私の気持ちを汲み取ってくれてた。
それにずっと甘えていたら、甘えることができたら、はせくんを好きになったら、私はすごく幸せだったと思う。
こんなズルい考えも、気持ちも、全部終わりにしたい。
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