第30話

「翔さんが、2人で休憩行っていいって」


 戻ってきたはせくんが笑顔で報告をくれる。


「翔さんが洸たちに伝えてくれるっていうから、このまま行こうぜ。たまには外で食べよう」


 はせくんの手が自然と私の手をとって、違和感なく歩き出す。


 そのまま2人で休憩室の扉を開けて、中に入り、自分達の荷物から財布とスマホと、必要最低限のものだけを手に取った。


「洸がめっちゃ睨んでたから、こっち来る前にとっとと出よう」


 はせくんの声に「え?」と聞き返すと同時に、はせくんが私の手を再びとって歩き出す。


 今度はさっきより速足で、はせくんと私が扉を開けて抜ける際に、バッグヤードの扉を開けようとした望月くんとすれ違う。


 (あ…!)


 驚く私と、呆気にとられた望月くんの顔がぶつかる。


 はせくんは望月くんがいたことに気づいていたと思うけど、気にする様子なく、私を店の外へと連れ出した。


 店舗が入っているショッピングモールには、お昼を食べれるところがいくつかある。


「どこにする?」


「はせくんはどういう系がすき?」

 

 私の手首を掴んでいた手は、自然な流れで繋ぐ形になっている。


「里帆に合わせるよ。女子はどういうのが好きなの?」


「えっと…じゃあ、オムライスやさんがいいな」


「了解。1階にあるよな。この時間だと混むかもしないし、急ぐか」


 力強いけど痛くない、強引にならない、頼りになるバランスで、はせくんが私を引っ張ってくれる。


 はせくんと休憩を過ごすことはほとんどなくて、すごく新鮮だった。


 いつもは望月くんと休憩に入っていて、…最近は、気まずく感じてた。


 一緒にバックヤードで過ごすことは少なくて、望月くんは当たり障りない理由をつけて外に出たり、バックヤードにいてもお昼寝に入ったり、話す機会も減っている。


 別々に休憩に入るようにしてもいいと思うんだけど、望月くんがタイミングを合わせるように久保田さんに言っているって聞いた。


「こうやって、はせくんと休憩とることができるなんて、レアだね」


「洸が邪魔してるだよ。俺と休憩に入れないように…」


 はせくんの拗ねてる声が耳に届いて、驚いて顔を上げる。


 前を歩くはせくんの顏は見えないけど、若干怒っているのが、握られた手から伝わった。


「里帆のこと避けてんのに、ちゃっかり休憩は一緒に入りやがって…。あいつはどんだけ邪魔すれば気が済むんだ…」


 珍しく感情を素直に出して拗ねる様子のはせくんが可愛くて、私は思わず笑ってしまった。


「あ!なんで里帆、笑ってんだよ」


 恥ずかしそうな顔でこっちを振り向くはせくんを見て、私はまた笑いが出る。


 拗ねてることを自覚してるだろうはせくんの様子が、可愛いなって、素直に思った。

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