恋が終わるまで⑦/動きだす
第29話
4人でボーリングに行った後から、望月くんと距離が出来たような、気がする。
冷たい態度をとられるとか、「距離を置きたい」と直接言われたわけでもない。
なんとなくの感覚で、距離が空いた気がしているだけ。
「里帆、洸を見つめてどうした?」
畳む手が止まっていた私に、はせくんが背後から声をかける。
「う…わっ!びっくりした…」
振り返ると、思ったよりもはせくんの顏が私と近い目線にあった。
「避けられてんの?」
「…はせくんは気持ちも言葉も直球に飛ばしてきますね…」
「敬語で返すほどダメージ喰らってる?」
「…喰らってるよ、」
ボーリングに行けたことで、仲が深まると、もっと仲良くなれると、思っていたのに。
行った後から距離ができるなんて、想いもよらなかった。
「まさかだよなー…。あの後、彼女と何かあったのかな」
「…はせくん」
私が思っていても口にするのを躊躇うことを、さらりと言えるのはなんで?
「里帆がダメージ喰らって、もう望月くんイヤ!嫌い!はせくんを好きになる!みたいな展開待ってるんだけど、いつまで経っても来ないなー…」
「望月くんが嫌って簡単にならないし、望月くんが嫌いになったからはせくんと…なんて、最低なことしないよ」
「…最低じゃないし、俺はそうなることを待ってるけどね」
(俺のこと、好きじゃなくてもいいよ、利用してくれて。)
はせくんの心の声がそう言っている気がした。
見上げて見つめても、はせくんの表情はなんともなく軽いもの。
飄々として考えが読めないことが多いけど、いつも、私が苦しいときや悩んだときに、近くに来てくれる。
今だってそう、忙しい接客の合間を見て、私のところに来てくれたから…。
はせくんが話に来てくれて、落ち込みそうだった気持ちを立て直すことが出来た。
「仕事に支障はきたしてないし、今は様子見がいいよね」
「教えるときは普通に接してくんの?」
「うん…、前ほど、天然で近いのかな?って思うところは、なくなったと思うけど…」
「俺が里帆に近づいても、反応しなくなったんだよなー…」
「…私が反応するよ、近いよ」
いいながら距離を詰めてくるはせくんを両手で押して離そうと頑張る。
細身の体なのに、触ってみるとがっつり筋肉質で、私の力で動かせる人ではない。
「お客様に誤解されるから…!」
「今はお昼時で入りが少ないし、…あ、休憩一緒に行く?」
「え…」
「たまにはいいじゃん。翔さんに確認してくる」
優しい表情でほほ笑んだはせくんは、慣れた手つきで私の頭を撫でてから、翔さんのところに向かっていく。
はせくんはボーリングの1件から、私の頭を撫でたり、髪に触れる回数が増えた。
大事なものに触れるように、大切に扱っているのが伝わるように触れるはせくんの手が嬉しくて、私は為すがままになっている。
はせくんが私に触れるときだけ、望月くんからの視線を感じた。
今も、自分の目で確認することはしないけど、望月くんが見ていた気がする。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます