第27話

「…望月くんが、帰った理由は、彼女さん?」


 意を決して聞きたかったことを口にした。


「そうだよ」


 はせくんの返答は迷いがない。


「はせくんたちは、彼女さんから電話が来ることは予想してた?」


 言葉を選んで聞くと、回りくどい質問になってしまうな…と思った。


 そんな私のもやもやがはせくんには伝わるのか、ストレートな答えを返してくる。


「メンヘラだよ、洸の彼女は」


「……っ!」


 言葉が詰まってしまい、私はスカートの裾を握りしめて、下を向く。


 予想はしてた、そんな気がした、だけど、私は自分を偽善者にしたくて、ストレートにその言葉を口に出来なかった。


「束縛も強いし、依存も強い、嫉妬もすごい。だから、洸の彼女が来たときは、里帆には休憩に入ってもらうか、洸と距離をとって仕事をしてほしい。どこから矛先が飛んでくるかわからないから」


「…心配だった?、話すタイミング、見てくれてたの?」


「いつかは言わないといけないと思ったし、何も知らずに対面するのは怖いと思って…。翔さんとは相談してた。洸には確認とってないけど、洸も、里帆と彼女の接触は心配だと思うから、言っても怒らないと思ったし…」


「そんなに、…大変?焼きもちすごいの?」


「めちゃくちゃすごいよ。翔さんと付き合ってるって知ってるのに、未だに菜子さんへの敵視が残ってるし…。正直、里帆と会わせたくないよ」


 はせくんの声色に反応して顔を上げると、心底「嫌い」ということが伝わる表情をしていた。


 珍しい、ここまではせくんが嫌がる女性がいるなんて…。


「はせくんも交流あるの?」


「あるよ。俺と遊んでいるときもすげーから。あいつ嫌い。なんで別れないのか…」


 最後の言葉は言いたくても普段我慢している、はせくんの本音だろう。


「でも、あいつと別れて里帆のところに来られるのもうっとうしいし…」


 出してしまった本音があるからか、はせくんは隠すことなく心の内をこぼしていく。


 頭を抱えてうなだれるはせくんに、なんと声をかけていいのかわからない。


「望月くんも、…彼女のことが大好き?」


「…好き、だったよ。最初はすごく。相思相愛って感じだったけど…」


「……」


「今はどうだろうな…」


 はせくんは、本当に優しいなって、こういうときでも感じる。


 言葉を選んでくれるし、望月くんのことを想ってくれるし、私への気遣いも忘れない。


 簡単に「好き」って気持ちと言葉だけで、説明できない恋もあるよね。


「望月くんは、彼女のところに行ったのかな」


 抱えていた頭をあげたはせくが、とんでもなくびっくりしていることが分かる顔で私を見た。


「え…、里帆、結構ぶっこむんだな…」


「え?踏み込み過ぎたかな?」


「…里帆が傷つかないように、言葉選ぶようにしてたんだけど、…意外とメンタル強い?」


「え、どうだろ…。ただ、彼女さんからの電話で帰宅したなら、彼女さんのところに行くかなって思って」


 はせくんは私の返答を聞いた後、じっと見つめてくる。


 私の表情をじーーーっと観察してから、質問の答えを返してきた。

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