第26話

「俺も先に行くけど、何かあったら、すぐにLINEして。約束できる?」


「うん、大丈夫、約束する」


「俺も、待ってるから」


 優しく頬を撫でると、はせくんも自分の鞄を持って移動していく。


 はせくんの指が、残りの涙をぬぐってくれた。


 優しさがすごく染みわたる。


 まだ望月くんが電話をしているなら、どこで遭遇するかわからない。


 急いでトイレにかけこみ、泣いた痕を誤魔化せるまで、メイクを直した。



 はせくんに「終わったよ!下のフロアについた!」とLINEを入れると、すぐに電話が入る。


 電話の声の支持を頼りにはせくんたちを探すと、すぐに発見できた。


 そして、その場にもう1人、長身の望月くんが目に入る。


 (合流したんだ…)


 少しだけバクバクし出した心臓に(落ち着いて…落ち着いて…)と唱えながら、4人が集まるユーフォーキャッチャーの前に向かう。


 私に気づいた久保田さんの様子に、背中を向けて話していた様子の望月くんも振り返る。


 顔を見た瞬間、なんとも言えない感情が湧いてきて、会えると、やっぱり嬉しくて、(帰らないで)と心が叫んだ。


「…ごめん、三上さん。帰らないといけない用事ができちゃって…」


 申し訳なさそうに話す望月くんに、無理矢理に笑顔を作る。


「大丈夫だよ!また来れるし、望月くんと一緒に出来て楽しかった!帰り、気を付けてね」


「うん、…ありがとう」


 切なさを含んだ笑顔で望月くんが笑う。


 私が戻ってくるまで待ってくれていたんだろう。


 私に帰る挨拶をした望月くんは、私たちに背を向けて歩き出した。


 未練がましくその背中を見つめる私は、話している間もずっと鳴っていたと思うスマホを、私たちから離れた位置になるまで取り出さずに堪えた望月くんの優しさに気づいてしまう。


 出るのが遅れた分、言われる言葉もたくさんあると思うのに、私たちに気遣いを見せてくれた。


 優しい望月くんを独り占めできる彼女が、羨ましくて、羨ましくて、憎く想う。


「この後、どうする?」


「ゲーセンでちょっと遊んで帰る?」


「俺は…、里帆と少し話してから帰ろう、かな」


 はせくんは久保田さんたちに答えながら、ちらっと私の様子を確認した。


「うん、わかった。話しちゃっていいと思うよ」


 久保田さんがはせくんに後押しを残すと、菜子さんと一緒に気になる台を探しに向かう。


 自然と手を繋いで台を見ていく2人に、「いいなー…」と素直な気持ちがこぼれた。


 その声が届いたのか届いていないかわからないタイミングで、はせくんが私の手を握り、歩き出す。


 少しだけ音が静かな場所のベンチに並んで座ると、はせくんが私に問いを投げる。


「里帆は、何が知りたい?どこから知りたい?」


 はせくんは、隠さず話してくれるようだ。

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