第24話

望月くんは躊躇する様子を見せながら、スマホを取り出し、画面を確認した。


 スマホは振動する様子があって、着信が鳴っているのかもしれない。


 望月くんは画面を見つめて、考える様子で固まり…、私たちに声をかけた。


「すみません、ちょっと抜けてもいいですか?俺の分は菜子さんが投げていいんで」


 ちゃかり菜子さんに代打を頼む望月くんに、「はあ?」とはせくんが反応したけど、「いいよ、ゆっくりしといで」と久保田さんが言葉を返す。


 望月くんがもう一度、申し訳なさそうに「すみません…」と言葉をこぼした。


 荷物は置いたまま、望月くんはフロアから離れて静かなところへ向かう。


 久保田さんとはせくん、菜子さんも、望月くんの電話の相手と様子を察している気がした。


「……電話の相手、誰なんでしょうね」


 沈黙と少し重たい空気に耐え切れず、心の声を出してしまう。


 さらに空気が重くなると思ったけど、久保田さんが冷静に言葉を返す。


「洸、戻ってこないかもしれないから、片づけて、下の階のゲーセン行くか」


「え、え?戻ってこないですか?」


「荷物は取りに来ると思うけど、電話が終わったらすぐ帰るよ。このままボーリングは終わりにしよう」


 はせくんと菜子さんも同じ判断みたいで、各自の片づけを始めている。


 どうしよう…と戸惑いから、動けずにいた私にはせくんが声をかけた。


「里帆、一緒にボール片づけに行こう」


 望月くんと自分のボール、久保田さんと菜子さんのボールを器用に抱えてながら持っている。


「うん…!」


 急いで返事をして、ボールを持つ。


 はせくんの隣に並んだ私を確認して、はせくんが歩き出す。


 はせくんに1つ持つことを提案したけど、「バランスとってるから大丈夫」と優しく断られた。


 重たいと思うのに、はせくんの足は急ぐ感じがなく、余裕のあるペースで進んでいく。


「…里帆、電話の相手、気になる?」


 はせくんの声が、遠慮がちに届いた。


「気に…なる、けど、なんとなく、予想はついているというか…」


「…そうだよな」


 珍しく歯切れの悪いはせくんの返答。


 望月くんの個人情報だから、私に教えることを躊躇う気持ちと、私を心配する気持ちと、両方のことを考えて、迷ってるのかな。


 はせくんにとって、望月くんが大事な親友だってことは、一緒にいて2人の様子を見ていたら、ちゃんと伝わる。


 ボールを1つずつレーンに戻しながら、私の頭の中は望月くんでいっぱいだった。


 フロアの静かなところで望月くんは電話をしているだろうし、戻ってきても帰宅する、その理由は…きっと…。


「電話の相手、洸の彼女だよ」


 顔を上げると、心配そうな顔で私の表情を確認する、はせくんの顏が近くにあった。


 答えを聞いて、(やっぱり…)と思った瞬間、涙が勝手に湧き上がってくる。


 はせくんは何も言わずに、優しく私の頭を撫でて、ゆっくりと歩きだす。


 私もはせくんに続いて歩き出した。


 望月くん、苦しいです。


 この苦しい理由を、説明できる言葉が見つかりません。


 ただただ、苦しいです。

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