第21話
「なんか、今日は波乱が起きそうな気がするなー…」
私と菜子さんのやりとりを見守っていた久保田さんが、頭上から言葉をこぼした。
(そんなまさかー…)
そう思っていたときが、平和だったかもしれない。
私と菜子さんで後部座席に乗り、久保田さんが運転席に乗り込む。
「あいつらの方が先に着くと思うから、手続きもさせておくか」
出発前に久保田さんがLINEを打ち込む。
「里帆ちゃん、ボーリングは得意?」
「それが全然…だめなんです、頑張ってるですけど、スコアが70も行かなくて…」
私と菜子さんの会話を邪魔しないように、ゆっくりと車が走り出す。
久保田さんの運転は、久保田さんらしい気遣いと優しさを感じるもので、車の運転って性格が出るんだなー…って思った。
「そうなんだ!私も上手じゃないんだけど…、翔たちに教えてもらおっか」
「そうですね!上達できるかも!」
「まあ…この3人と足の長さが違うから、フォームを完璧に真似するのは難しいと思うけど…」
どうやってこの長い足を使ってるんだ…と言いたげな菜子さんの表情が可愛かった。
「本当にみんなでボーリング行けると思わなかったので、嬉しいです」
「そうだねー…、はせくんと望月くんと、たまに翔が混じって遊びに行くってのはよくある光景だったんだけど…。私や里帆ちゃんを入れたメンバーで行くのは、珍しいと
思う」
「そうなんですか!?菜子さんもはせくんたちとよく出かけてると思ってました…」
そこは意外だった…。
慣れているメンバーに、私が入れてもらった感覚だったから。
「翔はちょっと年が離れてるし、見ての通り、はせくんと望月くんが仲いいから。なんとなくそうなのかなー…とか、はせくんから話をちょっと聞く程度なんだけど…、望月くんの彼女が、あまり、他の女性と関わってほしくないタイプみたいで」
「え…」
「本人に聞いたわけじゃないし、確認してないことだから、どうなのかなー…そうなのかなー…程度の認識で。今回、大丈夫なのかな?って思う部分はあったけど、望月くんが気にした様子もないし、はせくんも心配な部分があったら、本気で止めるだろうし」
菜子さんは、私の知らない事情のことまで考えてくれていたんだ…。
「たまにね、バイト先にも遊びに来てるの」
「そうなんですか⁉」
(知らないうちに会っていたかもしれない…)
浮かんだ不安が顔に出ていたのか、菜子さんが「里帆ちゃんがお店にいるときには来てないよ。」と教えてくれる。
「来たらすぐにわかると思う。今は、私に対して表面上は親しく振舞ってくれるけど…」
菜子さんの表情を見て、望月くんの彼女さんと難しい過去があるのかな…と、思ってしまった。
「望月くんのこと、本当に好きなんですね」
「うん、望月くんのこと大好きだからって、わかるんだけど…。彼女の愛し方って、依存に近いのかなって、思う部分もあるんだ」
言いづらそうに話した菜子さんの声は、小さく小さく、夜の景色に消えていく。
話ながら俯いていった菜子さんの顏は、ゆっくりと窓の向こうの景色に向けられた。
まだ、会ったことがない望月くんの彼女。
お店にも顔を出すってことは、私も今後、会う機会があるかもしれない。
彼女がいるって聞いた衝撃だけでも、まだ、心の奥にしこりとして残っているのに、実際に目にしてしまったら…。
私は、普通にお店に立ち続けることはできるのかな。
彼女さんを傷つけることなく、接することができるのかな…。
望月くんのことが好きってバレたら、きっと、きっと、彼女さんのことを深く傷つけてしまう。
彼女がいるってわかっても、好きって気持ちを消せない私が全部悪いのに、彼女さんを傷つけることは、絶対に、できない、してはいけない。
いつかに備えて、泣かない覚悟、バレない覚悟をつけておかなければ。
私も、菜子さんとは違う意識で、流れる窓の向こうの景色に目を向けた。
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