第20話

「菜子さん側に座った方がいいんじゃない?」


 振り向いて確認した望月くんの様子はいつも通り、優しさを含んだ声と笑顔なんだけど…、腕を掴む手に力が籠っている気がする。


「俺が里帆の隣がいいの」


 私が返事をするより先に、はせくんが返事をした。


「里帆は俺の隣、俺がそうしてほしいから。洸、邪魔すんな」


 はっきりとした口調で牽制を飛ばす。


 はせくんと望月くんの関係性があるから、決して険悪な感じになる言い方ではなく、芯が通った真っすぐな言葉だった。


「…ごめん、三上さん、はせの隣に座ってくれる?」


「あ、うん」


「俺も、三上さんの隣に座るから」


 私がはせくんの隣に座るより先に、望月くんが宣言した私の隣の席に腰かけた。


 2人の世界に入ってスマホを見ていた菜子さんと久保田さんも、望月くんの言動にびっくりして顔を上げる。


「…里帆も座って。少し休んでから向かおう」


「う、うん」


 はせくんの声がいつも以上優しく耳に届いた。


 はせくんの声に誘導されるように席に着くと、両隣からなんとも言えないオーラが漂ってくる気がして、居たたまれない気持ちになる。

 

 なんだろ?なんでだろ…!気まずいのはなんでだろ!!!


 私の気まずさを感じとってくれたのか、菜子さんが声をかけてくれた。


「里帆ちゃん、なにか買いに行く?飲みながら移動してもいいし…」


「あ、そうしたいです」


「じゃあ、俺らもそうしよう。はせと洸はバイクで行くだろ?俺と菜子と三上さんで向かうから、先に向かってて」


「了解です。はせ、バイクどこ止めた?」


「いつものとこ。洸もそこにあるだろ?」


「うん、ちょっと走らせながら行こうか」


「まだ時間あるし」


 わたしと菜子さんが飲み物を買いにいく時間も考えて、2人は少し走らせてから向かうらしい。


 こうやって2人で会話をする姿を見ると、仲良しだなーって実感する。


「焦らず向かっていいってことだよね、ありがとう」


 菜子さんが望月くんたちの気遣いを受けとって返事をすると、2人は爽やかな笑顔で手を振って、2人のバイクが止められた場所に向かった。


 久保田さんも一緒に席を立ち、私たち3人で店内のレジに並ぶ。


「里帆ちゃん、さっきの望月くん、意外だったね」


 菜子さんがこそっと私に耳打ちしてくれたけど、近くにいる久保田さんにも聞こえている気がする。


 久保田さんは菜子さんのことをよく見てるし、菜子さんのことには敏感だと思ったから。


「はい、私もびっくりしました…」


「最近、里帆ちゃんに対するスキンシップも増えてるよね」


「……菜子さんも、そう思います?」


「里帆ちゃん、鈍感だから気づいてないかなーってワンチャン思ってた」


「さすがに気づきます、菜子さんほど免疫ないので…」


 菜子さんと久保田さんの熱々ぶりを普段から見ていると、望月くんが私にしてくるスキンシップも、はせくんの距離が近いスキンシップも普通のことなのかな?って、バグりそうなときはあるけど…。


 免疫そのものがない私は、しっかり過剰に反応した。

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