恋が終わるまで③/先駆者たちの気持ち

第13話

「…菜子、なに考えてる?」


助手席で窓の向こうを眺める彼女に声をかけた。


俺のことが届いてはいると思うけど、菜子は言葉がうまく出ないのか、押し黙ったまま。


ちょうど赤信号で止まったから、菜子の顔を確認しようと横に顔を向けると、窓越しにぶすーーーーっと不機嫌な菜子の顏が確認できた。


「めっちゃ拗ねてるじゃん」


「拗ねてるんじゃない、怒ってるの!」


「はせに送りオオカミしたことバレてること?」


焦って振り向いた菜子に叩かれたけど、全然痛くない。


「違うよ!!!」


「洸のこと?」


「…そう。ちょっと、今日のバックヤードのときから、気になってたから…」


菜子が気にしていたことは知ってる。


休憩中の2人を見て、菜子が「ちょっと心配…」とこぼしたのをきっかけに、今日の2人を観察した。


菜子の不安が的中したのか、休憩上がりの三上さんの様子はおかしく感じたし、洸は気づいているのかどうかわからないけど、態度がいつもと違ったように見える。


洸自身も、無意識に動いて、自分の気持ちがわからないままかもしれない。


「不安は見事に的中したしな」


「望月くん、無意識だと思う?」


「現時点では、無意識だと思うけど、今後はどうだろうな。はせが本気出してくるだろうし」


「…望月くんが自覚したときに、本当の一波乱がありそうだね」


「まあ、うちの職場は社内恋愛に慣れてるから、平気だろ」


さすがに運転中に菜子のぱんちを喰らうのはきつい。


「俺らだって、散々優子さんたちのお世話になったし、今度は俺らが3人を見守ってやらないとな」


「…翔がはせくんの気持ちがわかるように、わたしも、里帆ちゃんの気持ちがわかるから…」


「菜子は、俺にぐいぐい来られて嫌だった?」


なんとなく口にしただけだったのに、思いのほかびっくりした反応でこっちを見る菜子に、俺もビビった。


「翔、傷ついてる?」


「そんな風に見える?」


「…ううん、見えない」


「俺は、菜子の気持ちを無視して、見ないようにして、弱みに付け込んだ立場だから、別に振り向いてくれないときに傷つくことはなかったよ。罪悪感はあったけどね」


「……」


「まあ、大和のときは彼女がいなかったわけで、洸の場合は、相手がいるからさ。そこが厄介なんだよなー…」


洸の彼女は店舗に顔を出すこともある。


洸のバイト終わりに迎えに来て、そのまま洸の部屋に泊まるって話していたこともあるし、どういった形で三上さんの耳に入るか…。


鉢合わせたときの衝撃もすごいだろうし。


自分達が当事者から離れたとしても、実際に3人の恋愛を目の当たりにすると、心配や口出ししたい気持ちが出てくる気がした。


「俺らが心配したってなんにもならないし、あいつらが自分で決めることなんだけど…」


「本当は、誰にも傷ついてほしくないよね」


「そうなんだよな…。にしても、ここの店舗は必ず社内恋愛が起きるな」


照れ隠しのもう一発が入る前に、菜子の唇を塞いだ。


ちょうど自宅の駐車場に車を止めたし、明日は2人そろって遅番。


若い子たちのために頑張った分のご褒美は、可愛い菜子の姿でもらおうかな。


とろんとした瞳で俺を見る菜子に、深いキスをもう1回してから車を降りた。


「不毛な片想いを成就させた俺に、たっぷりのご褒美と菜子からの愛情があってもいいよね」


助手席から降りるのを躊躇する菜子を担いで、俺らの同棲するアパートの扉に向かう。


「翔…、明日、新作届くから、腰、ほどほどにして」


ぎゅっと巻き付きながらお願いする菜子に、そのお願いは聞けない気がするなー…と思ってしまった。

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