第12話

「俺にすれば?」


直球過ぎる返事に、鳩が豆鉄砲喰らったような目で見つめ返す。


「そんな簡単な話じゃないよ…!」


「俺の方がイケメンだし、俺の方が頭がいいし、俺の方が”望月くん”より優しいよ?」


「……」


「ノーコメントが一番きついから。洸の彼女、洸にべたぼれだから、別れることも簡単にしないだろうし、洸も彼女のこと大事にしてるよ」


「うん…」


はせくんが意地悪で言っているわけじゃなくて、真実をただ教えてくれてることはわかる。


私がそれでも望月くんに片想いを続けるのか、覚悟をつけさせているような気さえした。


「大事にしてるわりに…。ね、今回は、洸のこと、嫌いになりそうだ」


そう言って、買ってきた飲み物を口にした。


それ以上の続きはもう、言うつもりがないらしい。


「里帆は?今日はどう帰るの?」


「遅くなったから、俺と菜子で送っていくつもりだったよ」


「だったら、俺と帰ろう、送っていくから」


「え!?でも、はせくんバイクだよね?」


「気分転換になるし、安全運転するから大丈夫だよ」


「えー…」


ちょっと怖い気持ちが勝ったけど、いたずらっ子みたいなはせくんの顏が、優しく見えたから、今回は乗ってみることにする。


「送りオオカミにならないようにね。里帆ちゃん、おうちに着いたらLINEしてね」


「菜子さん、俺への信頼は…?」


「えー…」


はせくんの顔を不安そうに見つめる菜子さん。


「そこんところ、翔さんとは違うんで」


真顔で言ったはせくんに、久保田さんがすぐさま蹴りを入れていた。


赤面している菜子さんに突っ込むことはできず、私も黙って残りを飲み切る。


はせくんが飲み終わるのを待って、一緒に席を立った。


手を振る菜子さんと久保田さんに手を振り返して、私ははせくんのバイクが置いてある場所に並んで向かう。


「一気に飲んだじゃん、お腹冷えてない?」


「大丈夫だよ」


「女って、冬でも冷たい飲み物、飲みたがるよな」


「スタバで頼むならフラペチーノ一択じゃない?」


「バイク、冷えるから、寒くないようにな」


バイクの前で足を止めた私の、上着のチャックをしっかり上まで閉めてくれた。


こういうさりげないことができるはせくんはずるい。


そのまますぽっとかぶせられたヘルメットは少し大きかったけど、いい匂いがする清潔なものだった。


「俺のいないところで泣くなよ、心配になるから」


先にバイクに跨ったはせくんに続いて、私もはせくんの後ろに乗り込む。


(しっかり捕まってろよ。)


声では届かなかったけど、はせくんのお腹に回すように誘導された手が、そういってるように感じた。


捕まったはせくんのお腹は、服の上からでも固いのが分かる。


(鍛えてるんだなー…。)


そんなことを考えていたら、バイクがゆっくりと動き出した。



頭ではわかってる、はせくんを好きになった方が楽だって。


大事にしてくれるって、はせくんがすごく優しいことも。


だけど、頭でわかってても、心がどうにもならないのが恋だと思うから。


今のわたしは、冷静に物事を判断できる「頭」では、もう、なかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る