第9話

各々で飲み物を注文し、テラス席に座った。


「さて、お話聞かせてもらいましょうか」


菜子さんが話を切り出す。


「望月くんとLINE交換した後に、彼女の存在を聞いたの?」


私たちが休憩中に、菜子さんと先にLINEを交換した。


菜子さんがフロアに戻った後の2人のやりとりで、そのことがあったのか、確認したかったんだと思う。


「はい…、菜子さんが戻った後に、2人で会話をしてて…」


「…私、望月くんは彼女の存在、言わないと思ってた」


菜子さんの発言に、俯き気味だった顔をあげた。


「俺も。洸は隠したままにすると思ってたから…」


菜子さんの発言に驚く私に、久保田さんの声も追い討ちで届く。


菜子さんは、望月くんに彼女がいることを知って、久保田さんも知ってた。


「い、言わないと思った理由は…?」


「里帆ちゃんのこと、気に入ってるから」


「え?え!?」


菜子さんの返事にびっくりしすぎて、変な声が出る。


「俺も思った。洸、はせから三上さんを遠ざけようとするし、俺が指導するのも、正直いい気はしないんだろうって思うことあるし」


「ぜんっぜん、そんな感じないです!」


「里帆ちゃんは当事者だから、気づかないよね」


「………」


2人の言葉に空いた口が塞がらないとはこのことだと思う。


「望月くん、見ての通りの好青年だから、彼女がいるのに、里帆ちゃんには思わせぶりというか、距離が近いことが珍しいなって。気になってはいたんだよね。」


「珍しいよな、三上さんに接するときの態度とか、はせが近寄ると焼きもち焼いたり。」


固まる様子の私を気に留めず、菜子さんと久保田さんはさらなる追い打ちをかけてきた。


「…、わたし、それ、どういう風に受け取ったらいいでしょうか?自惚れて、いいんでしょうか?」


「はせくんは完全に里帆ちゃん狙いだよね。」


「俺も断言できる。だから、余計に洸の態度にいらっとするんじゃないかな。」


いきなりのモテ期到来に、正直どんな反応をしていいのかわからなかった。


固まってしまった私に、菜子さんが優しく問いかける。


「里帆ちゃんはどうしたい?望月くんのこと、好きでいたい?」


「…好きでいたいです。彼女がいるって知っても、諦めきれません」


口に出して、最低なこと言ってるなって、自分でも思った。


思ったけど、好きな気持ちが止められない。


好きって気持ちが無くならない。


自分が想っている以上に、望月くんに堕ちていた。


「そうだよね、簡単に気持ちって割り切れないよね」


菜子さんは私の気持ちを否定せずに受け入れてくれた。


久保田さんは、難しそうな複雑そうな顔のまま、腕を組んで考え込んでいる。


「俺としては、…はせの肩を持ってあげたくなるんだよねー…、俺も同じ立場だったから」


絞り出した声は、複雑な気持ちを物語っていた。


「”俺も同じ立場だった”、とは?」


頭に浮かんだ疑問をそのまま口にすると、菜子さんが気まずそうに視線をそらした。


そんな菜子さんをお構いなしに、久保田さんは首に腕を回して引き寄せて、とんでもない爆弾発言を投下する。


「俺らも三角関係の末に、付き合ったから」


「ええええーーーーーー!!!!!」

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