第8話
休憩が終わった後は、閉め作業をしながら、接客をするという流れに。
望月くんは接客をしながら、レジの作業をしたり、在庫を確認したり、やることがたくさんなので、わたしは畳みと掃除に集中。
ときどき菜子さんが手伝いに来てくれて、望月くんたちに呼ばれたら確認に行って、お客様がきたら接客に入って、いつも通り今日のバイトを終えた。
いつもと何も変わらない、いつも通りだと思ったのに。
カードを差して裏口から外に出た瞬間、涙が込み上げてくる。
平気なわけない、なんともないわけない。
ただ、我慢していただけ。
緊張の糸が切れて、涙はどんどん視界をゆがめた。
このまま泣いて帰ろうと思って歩き出したとき、背後からわたしを呼ぶ声が聞こえる。
「里帆ちゃん!!」
最初は小さく聞こえた声が、肩に置かれた手と一緒に大きく届いた。
「わ!あっ…、菜子さん…と、久保田さん…」
久保田さんは少し離れたところから、こっちに向かって歩いていた。
わたしを呼び止めた菜子さんは、わたしの顔をみてぎょっとしている。
「大丈夫?泣いてた?ちょっと気になってたの、休憩終わりから、様子おかしかったよね?」
「…、ちゃんとできてなかったですか?」
「ううん、充分頑張ったよ、すごく頑張ってたよ。わたしがそういうのに敏感なだけで、望月くんも翔も気づいてなかったから」
「俺は気づいてたよ」
わたしたちに追いついた翔さんが口を挟むけど、「そこは気づかなかった体にしといてよ。里帆ちゃん頑張ってたんだから」と菜子さんが噛みつく。
菜子さんと久保田さんの顔を見たら、もう、もう、我慢がとっくに無理だった涙腺は、本格的に壊れた。
「望月くんと休憩中に何かあった?」
「グループLINEの交換があったのはわかったけど…」
久保田さんと菜子さんも招待したので、通知が届いたんだと思う。
「望月くんに、彼女がいることを聞いて…」
菜子さんと久保田さんの空気が一瞬止まって、「スタバ行こうか」と翔さんが提案してくれた。
「近くにあるから、そこに移動してお茶しよう。そこでゆっくり話、聞いてもいい?」
「…はい」
勢いで言ってしまった…と、涙腺の崩壊もあって、放心状態。
泣いた理由を話したことで、菜子さんと久保田さんには、わたしの気持ちがバレただろう。
バイトに恋愛を持ち込んでしまった罪悪感と、知られてしまった恥ずかしさと、色々あって、余計に気持ちが落ち込んだ。
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