第45話

ゆっくりと…。


 逸る気持ちとは裏腹に、静かな動作で開けたドアの向こう側。


 真ん中にある小さな光の中に、はせくんの姿を見つけた。


 はせくんからの反応は、ない。


 ゆっくりと、極力、物音を立てずに進むと、テーブルに伏せて寝ているはせくんの姿が、はっきり視界に入ってくる。


 (寝てたから、反応がなかったんだ…)


 隣に座ると、起こしちゃうかもしれない。


 開始時間まで、あと20分はあるから、寝かしてあげたい気持ちはあるし…、近くにいたい気持ちも、ある。


 少しの葛藤の末、慎重に、慎重に、物音を立てないように、細心の注意を払って、はせくんの隣に椅子に腰かけた。


 ふわっとほのかに、はせくんの香水の匂いが鼻をかすめる。


 (すき…)


 好きな人の、香り。

 

 嗅げば、瞬時に(すき)っって気持ちが、脳内を走りまわる。

 

 好きな人、になった、はせくん。


 触りたい…けど、どうしよう、起こしちゃうかもしれないし、勝手に触ったことがバレるのも、恥ずかしいし…。


 急激に自覚した(好き)って気持ちと、やり場のない衝動。


 こんなにも、はせくんを好きだと、全身が訴えてくるのに…。


「夢、じゃないよね…」


 不安になって、問いかける。


 これがもし、夢だったら、わたしの願望の続きだったら、こんなに好きって自覚をした後なのに。


「両想いに、なったんだんだよね」


 寝ているはせくんから返答があるはずないのに。


 不安を口に出さずに、いられなかった。



「…夢なわけねーじゃん」


「え…」


 はせくんの声が聞こえたと思ったら、わたしの体が、いきなり大きく動いた。


 引っ張られる衝動の大きさにびっくりしたのも一瞬で、すぐに安心するぬくもりが届く。


 とくんとくん…、心臓の音が耳から届いて、わたしを抱きしめる腕からは、安心する香りが漂う。


 はせくんの大きな腕の中に、わたしはすっぽり、収まっていた。


「お、起きてた…?」


「途中から、起きた、かな」


 ちょっとだけ、低くて掠れた声が、はせくんが寝ていたことを証明する。


 身長差があるのに、座高は一緒ぐらいなのか…。


 はせくんが抱きしめる腕を強めると、わたしの首裏あたりに顔を埋めてきた。


 近くなる声とぬくもりに、わたしの心臓はばくばく高なる。


「夢にされたら、困るから…。俺が、どんなに里帆を好きか、まだわかんないの?」


 はせくんは、寝ぼけてると思う。


 だって、いつもより甘えん坊で、可愛い感じだもん。


「夢かなって思うぐらい、はせくんと付き合えたことが、嬉しかったって意味だよ」


「……、洸にあった?」


「ううん、まだ会ってないよ」


「……」


 はせくんは、なにか言いたい感じがあるのに、口に出すのを躊躇している様子。

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