バックヤードの秘め事。

第44話

あれからのこと。


 心配をかけていた菜子さんに、LINEで報告。

 

 はせくんとお付き合いをすることになったと、連絡したら、菜子さんがすぐに電話をくれて。


 喜んでくれる菜子さんに、わたしはまた、うれし泣きをしてしまった。


 同棲中の久保田さんにもすぐに話がいき、わたしと菜子さんが話す電話の向こうで、はせくんと話す久保田さんの元気な声が。


 はせくんがからかわれて怒っているのかな?と、想像がつくような元気な様子に、わたしと菜子さんもつられて笑う。


 幸せな時間が、はせくんを通して広がっていく。


 はせくんに恋をして、よかった。


 はせくが、わたしを好きになってくれて、よかった。


 好きでいることの覚悟、恋愛はじぶん自身と向き合うもの、それらを知ったから。


 楽しいことばかりじゃなくても、わたしは、はせくんと手放さないために、ずっと一緒にいるために、じぶんのすべき努力を、続けていく。


 明るく楽しい夜が明けた翌日。


 わたしとはせくん、菜子さん、久保田さんは、いきなり出勤が被る。


 菜子さんと久保田さんは、前半組。


 わたしとはせくんは夕方組。


 いつも通り大学を終えて、バイト先へと向かう。


 はせくんとは、付き合ったからといって、連絡頻度が変わることはなく。


 今まで通り、用事があれば連絡をする、といった感じで。


 まだ付き合って2日目?だから、そう変化がないかもしれないし、今まで通りがお互いにとって楽かもしれないし。

 

 会えることが嬉しくて、気持ちが弾んで、それだけで、十分だった。


 片想いじゃなく、両想い。


 恋人同士でシフトが被るという経験が初めてで、どんな風に出勤したらいいのか、顏がおかしくないかとか、弱気な気持ちと正反対に、足取りは一生懸命、はせくんに向かって進んでる。


 ICカードを出して、警備員さんたちに挨拶し、フロアに繋がる廊下を、走らないように気持ちを抑えながら、急いで進む。


 どきどきと高鳴る胸は、嬉しさと興奮に溢れていた。


「お疲れ様です…!」


 一番先にフロアで見つけたのは、菜子さん。


 菜子さんも、すぐに気づいて挨拶を返してくれる。


「里帆ちゃん!お疲れ様!はせくん、来てるよ」


「…っ!はい!ありがとうございます!」


 挨拶もそこそに、わたしはバックヤードにいるはせくんのところに、一直線に向かった。


 菜子さんの優しい笑顔を、背中の向こうに感じる。


 今は、この扉を開けることに一生懸命で、他のことに目を向ける余裕がない。


 こんなにはやる気持ちは、初めてだった。

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