第36話

望月くんとわたしの恋は、今日、やっと…、終わりを迎えることが、出来たよ。


 自己完結になっちゃうけど、今のわたしが感じたこと、受け取ったことは、望月くんに確かめたり、共有することはしない。


 言葉で確認しなくても、気持ちを見せ合わなくても、わたしと望月くんが持ち続けた「短くて小さな恋」は、今日、2人で終わりにできたとわかっているから。


 確かに、ここに恋があったことを、わたしは忘れない。


 向き合ってくれて、ありがとう。


 そのままにしないでくれて、ありがとう。


 わたしの声に、気持ちに、気づいてくれてありがとう。


 感謝の気持ちで、この恋は、終わる。




「里帆」


 はせくんが、心も体もすっきり軽くなったわたしを呼ぶ。


 たった2文字の言葉が、わたしの脳内まではっきり届いて揺さぶる。


 引力を感じるようにはせくんを見上げれば、瞬時にわたしの頬を掴んだ大きな手が、わたしの顔を隠すように…。


 はせくんへと引き寄せて、キスをした。


 軽く触れて、離れた唇は、急激な熱を持つ。


「……っ!!は、はせくん…!!」


 咄嗟に口を塞いで、はせくんを見上げる。


 この身長差がムカつく!


 殴るには足りないし、見下ろされる目線から反省の色を感じることも、できない。


「な、なにやってるの⁉お店だよ⁉」


 大きな声で怒鳴りたいけど、お店だし、ギリ営業時間だし、騒ぎになったら困るから…!


 はせくんに怒りが伝わる声量で、必死に抗議する。


「人いないし、あと少しで閉店じゃん」


 抜け目なし。


 周囲を確認して、人目がない、閉店まであと10分程度、ということを、理解してやってのけた、という頭の良さ。


 色々とムカつく気持ちが湧いてくる。


「なんで、こんなことしたの?」


 はせくんを睨みつけても、効果がないことはわかってた。


 いつも通り、堂々とじぶんの意見を主張してくると思ったけど、はせくんの表情は、少しずつ暗くなっていき…。


「ムカついた、から」


 絞り出された声は、初めて聴くぐらい弱々しいもの。


「洸のこと考える、里帆に、ムカついた」


 はっきりと目線を合わせていったはせくんは、わたしの反論を聞かず、背中を向けて離れてしまった。


 わたしを突き放すように「話しかけんな」って言ってるみたいに。


 勝手なことをして、かき乱したのははせくんなのに…。


 この状態で残されて、どうしていいかなんて、すぐにわからなかった。

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