第29話
「…はせくんも、テスト大変だった?」
連絡なかったね、なんて、図々しい発言は、出来なかった。
だけど、テスト期間で、会えないことも、連絡が出来ないことも、思った以上に寂しくて。
それが、遠回しでも、伝わってくれたらなー…って、思ったよ。
「大変だったーー…かな」
わたしの目の前にどかっと座って、テーブルに腕を組んで、はせくんが下から覗くようにわたしを見てくる。
「…寂しかった?」
はせくんに、出す言葉も、表情も、気持ちも、全部少ないのに。
最小限しか出していないのに、はせくんは、なんでこんなにも正確に、捉えてくれるのかな。
じっと、はせくんを見つめ返すしかできず、心の中に、きゅーんと締め付ける切なさが、増していく。
はせくんが、どう感じとったかは、わからない。
ふわっと笑った後、「そろそろ行くか」と、フロアに出勤する準備に立つ。
久々に過ごすバックヤードは、以前と違う感じ方があって、今日は、新鮮な気持ちで、そわそわしていた。
そのそわそわが、他の進展を運んでくるとも、露知れず…。
いつも通り、フロアに出て、先に出勤している先輩たちに挨拶を済ませる。
はせくんとレジに戻り、わたしたちが休んでいた間の連絡事項に、目を通す。
はせくんと並んで、確認した内容から、じぶんたちのハンコを押していき、全部に目を通し終えたぐらいで、久保田さんがレジに入ってきた。
「久しぶりに全員揃ったな」
大学生組の出勤は、本当に久しぶりだった。
「テストどうだった?」
「返ってくるまでが怖いです…」
「そうだよねー、わかるわかる」
「久保田さん、そんな昔の感覚覚えてますか?」なんて発言で、はせくんが視界から消える。
首絞めのプロレス技をかけられているはせくんを視界の中に入れながら、さわやかな笑顔で今日の指示出しをしてくれる久保田さんの内容を、急いでメモに残した。
ギブ、ギブ、とじゃれ合う高身長の2人は、はせくんとわたしで、担当エリアを分けること、一通りの流れが終わったら、もう一度集合することを、再度確認。
「よし、今日も頑張りましょう!」
久保田さんの挨拶で気持ちを引き締め、じぶんたちの持ち場に異動し、作業に取り掛かった。
わたしはレディースエリアの新作品出し。
在庫の位置を移動して、新作を出せる場所を作ったあと、届いた段ボールから袋だし、畳みの準備をしていく。
はせくんはメンズエリアの新作品出しで、わたしと工程作業は同じ。
はせくんは手際がいいので、接客も同時進行。
わたしは、菜子さんが接客とディスプレイの変更を担当してくれるので、じぶんの作業に集中しながら、必要があれば、接客に入るって流れだった。
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