傷つく覚悟を決めて⑥/時間を置いて、見えてきたもの

第27話

はせくんと話して、時間を置いたら、見えてくる気持ちがあるかもしれない、と思った。

 

 ちょうどテスト期間に入り、わたしと望月くん、はせくんの大学生組は、長いお休みに。


 望月くんとはせくんは、同じ大学だから、お互いに情報を交換し合ったり、勉強したりで、いつも成績は上位にあるらしい。


 わたしは2人みたいに学力に自信がないから、本当に必死で…!!!


 望月くんのことを考える暇がないぐらい、勉強に集中して、テストをやっと終えた解放感!!!


 最初に出勤で被るのが、望月くんなんて、全く予想していなかった…。


「お、おはようございます…」


 私より先に出勤していた望月くんは、普段通りの爽やか全開で、お店に立っていた。


「おはよう三上さん。お互い、テスト大変だったね」


 そういって笑う姿は、本当に、いつも通り。

 

 テスト前のあの出来事は、全部嘘だったのかな?わたしの幻想かな?って思うぐらい。


 テスト休みに入る前のあのときも、勝手に気まずさを感じているのは、私だけで…。


 望月くんは、次の日にも関わらず、いつも通りに接してくれていた。

 

 じぶんのことで、いっぱいいっぱいだったから、望月くんの本来の優しさとか、気遣いとか、わたしにしてくれることが、全部、見えなくなっていたんだね。


「望月くん、…ごめんね」


 望月くんは、優しい笑顔を向けただけ。

 

 わたしの謝罪に対して「反応している」とも悟らせない、ただただ優しい笑みを向けてくれた。


 わたしもそれ以上、何も言わないことにする。


 だって、望月くんが向けてくれた優しさを、無下にしたくないから。


「はせと一緒の入りだよね。あいつ、まだ来てないんだけど…」


「そうなんだ!めずらしいね…、遅刻かな?」


「責任感が強いから、意地でも遅刻はしないと思う…」 


 そう言いながら、視線を入り口の方に向けると、従業員入り口を抜けるまでは走ってきたのかな?と思わせるはせくんの姿。


「わーー…ほんとだ」


「あいつ、まじですごいから」


 笑う望月くんの姿は、まだ、わたしが知らなかったもの。


 いつも丁寧な言葉を選んでいる望月くんが、「男友達」に戻る瞬間。


 望月くんとはせくんの、深い友情が垣間見えた。


 汗を軽く拭いながら、はせくんがこちらに向かってくる。


「はせ、汗ヤバいじゃん。そのままフロアに出るの?」


「いや、バックヤードで着替える。替えの服が置いてあるから…」


 長身の望月くんの陰で隠れて、わたしの存在に気づくまで間があった。


「里帆、いたんだ」


「…います」


「行こう。急いで支度しないと」


「まだ余裕ある…よ」


 わたしの言葉に、意地悪な笑みを向けると、そのまま腕を引いて歩き出す。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る