傷つく覚悟を決めて⑤/人のこと、言えないね。

第23話

バックヤードのテーブルに、腕を置いて、顔を隠すように倒れた。


 1人の時間になって、気持ちが緩む。


 望月くんは、本当に、いつも通りだった。


 はせくんも、いつも通り、なにも変わらず。


 わたしだけが、ぼーっとして、2人の普段通りにどうしたらいいか、わからなくて。


 わたしだけが…、情けなかった。


 (このまま昼寝しようかな…)


 ガチャ―ーーー…バタン。


 現実逃避を続けようとする脳に、誰かが扉を開ける気配を届ける。


 扉を開けたのが誰か、確認する勇気すら、出ない。


 近づく気配に、望月くんだったら…!という焦りが生まれてくる。


 トン―――


 わたしが突っ伏してるテーブルに近くに、手が置かれた。


 びくっと、条件反射のように跳ねる体。


 ふわっと香る匂いに、体の緊張が抜けていく…。


「里帆、起きてる?」


 はせくんの声が、優しく耳に届いた。


 ゆっくり顔を横に向けると、はせくんの腕が視界に入る。


 ほっとした、はせくんだ…って。


「うん、起きてる。…はせくんは?」


 どうしてここに来たの?と聞きたかったのに、上手く言葉が出なかった。


 寝ていないつもりだったけど、脳は先に寝ていたかもしれない。


「空いてるから、先に休憩もらった。…里帆のことが、心配だったし…」


 はせくんが苦笑しながら、わたしの頭を優しく撫でる。


 すっと離れた手に、寂しさを覚えた。


 はせくんはわたしの向かいの席に座り、長い足を組んで、向き合う。


「洸と、話し、できた?」


 はせくんの優しい聞き方に、素直に言葉が出た。


 望月くんと話したこと、あった出来事、わたしが望月くんにした反応、今のわたしが望月くんに思うこと。


 順番がぐちゃぐちゃだったけど、はせくんに1つずつ話すことが、できた。

 

 話し終えた後の、わたしの今の気持ちは…。


「まとまり、きれない。気持ちの整理が、追いつかない…」


 わたしが今まで見ていた望月くんは、なんだったのか。

 

 あのときの望月くんが本物だったのか。


 わたしが好きだった望月くんは、なんだったのか。


 なにも見えなくなって、どう接することが正解なのか。

 

 ちゃんと話し合うつもりだったのに、わたしが話し合いから逃げてしまったのかな、って。

 

 はせくんに話ながら、反省をした。


「里帆は、洸のこと、…どう思ってる?」


「今は…彼女がいるのに…、最低な人って、気持ちが…強いかも…」


「たまたま、里帆を好きになったときに、彼女がいて、…どっちを選ぶか、決めきれなかっただけじゃないかな」


「……っ」


 びっくりした――――…


 強く息を吸い込んだ後、ゆっくりと、はせくんを見つめた。


 はせくんが、望月くんの方を持つと、思わなかったから…。

 

 すごく、驚いた顔をはせくんに見せたと思う。

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