傷つく覚悟を決めて②/中途半端な奴には、渡さない。

第11話

昨日の今日で、…どんな顔をして、望月くんに会えばいいのか、わからなかった。


 好きな人とバイトが被っているかは、重要事項。


 望月くんに彼女がいることを知る前の、浮かれてスケジュール帳にメモしたわたしが憎すぎる…!


 気まずすぎるよ!どんな顔で会えばいいの!!!と悩みながら出勤すると、ちょうど望月くんがいないときで。


 (休憩中かな?)と不安に思いながらバックヤードを開けると、中にいるのは、はせくんだけだった。


「…はせくん、だけ?」


「…悪かったな、俺だけで」


 あからさまにむっとした顔をするはせくんに、「ちがう!そういう意味じゃなくて!」と、安心した意図だったと弁明する。


「フロアに洸、いなかった?」


「うん、いなかったから、…休憩中かな?って、ちょっとどきどきしながら開けたら…」


「…悪かったな、俺だけで」


 相当、むかついているのか、同じ言葉を使って不貞腐れる。


「はせくんでよかったよ。今、顔を見るのは、気まずいし…、はせくんの顔見たら、ほっとした」


 心から、ほっとしている声が出た。


 バックヤードの真ん中に位置する大きなテーブルにバックを置き、はせくんの向かい側の椅子に、脱力するように座り込む。


「なら、ずっと俺のことだけ、見てろよ」


「…え、」


「あいつの顔見なくていいじゃん。俺だけ見てれば」


 はせくんの真剣な瞳が、わたしを捕らえる。


 ーーーーー捕まった。


 頭の中に、そんな思考がよぎった。


 言葉が出ないまま、少しの間、お互いだけを見る時間が生まれた後…。


 その空気を壊すように、開いたバックヤードの扉から、声が届く。


「三上さん、来てたんだ。お疲れ様」


 望月くんの声にはっとして、わたしは急いで扉の方に体を向ける。


「あ、…お疲れ様、望月くん」


 はせくんは、望月くんに反応せず、わたしをじっと見たまま。


 こっちの方に歩いてくる望月くんにも反応せず、半分立ち上がる素振りで望月くんに反応するわたしの髪に、手を伸ばす。


「里帆、今日は三つ編みにしたの?」


 広いバックヤードでは、わたしたちのいる位置まで来るのに、距離があった。


 望月くんには聞こえないぐらいの声で、はせくんが話しかける。


 そっと掴んだ指が優しくて、ただ編んだ髪に触れているだけなのに、すごく「優しくされている」気持ちになった。

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