第9話

「…思わせぶりなこと、されてたもんな」


 何度、こうやって、はせくんが助け舟を出してくれるんだろう…。

 

 わたしが傷ついた気持ちの他に、浮かんできた感情を、はせくんは躊躇なく、外に出してくれた。


「だから、最近のはせ、すげーイライラしてたんだな」


「くそムカつくんで。めっちゃ腹立ったんで。だから、今日は里穂に警告しようと思って…いったのに」


 また、苦しそうな顔をする。


 気持ちは複雑で、望月くんから離れることをしないのに、わたしの目線は、はせくんばかりを追いかけた。


「わたしも正直、思うところあるよ。望月くんの態度、わたしから見ても、ちょっと…って思うところ、あったから」


 菜子さんもはせくんの言葉に続く。


「だって、彼女いること言ってなかったんだよね?…里帆ちゃんには、耳が痛い言葉だと思うけど、…望月くんのこと好きだろうなって、みんなわかるぐらい、出てたから」


「…えっ!?」


「はせが三上さんを好きだったから、気づいたわけじゃなくて、たぶん、俺ら全員、知っていた、かも?」


 色々と耐え切れなくなっていくわたしの様子に、久保田さんが最後の語尾を濁してフォローをしてくれる。

 

 恥ずかしい…恥ずかしい…恋愛経験のなさすぎるじぶんが恥ずかしい…。


「だから、望月くんもわかってて、思わせぶりをしたところ、あったと思うんだよね」


「はせがキレてんのってそこもあるんだろ?親友だからこそ、そういうだらしないことすんじゃねぇって」


 久保田さんの言葉に、はせくんは「うん」とも言わず、頷くこともせず、なにも、反応しなかった。


「……、ゆっくり、考えます」


 すぐに答えは、出せない。

 

 そんな簡単に、気持ちの整理がついたり、どうしていきたいか、決めれるほど、わたしは強くないし。

 

 恋愛感情は、扱いやすいものでは、なかった。


「俺は、もう答え出てるんで。遠慮しないです」


 (ガツガツいく俺の邪魔、しないでくださいね)

 

 そう言いたげに牽制する俺様君主に、久保田さんと菜子さんは、揃って大きなため息を吐く。


 話が一息ついたので、今日はここで解散することに。


 俺が送っていく!と言い張るはせくんを久保田さんがなだめる間に、菜子さんと並んで2人の車の方に向かう。


「ゆっくり決めればいいよ。焦って決めることじゃないから」


 夜風に乗って、菜子さんの優しい声が耳まで届く。


「わたしも、たくさん悩んで、翔を待たせて、振り回しての、今だから」


「…え?翔さんと菜子さんも、なにかあったんですか?」


 今の2人しか知らないわたしは、寝耳に水の出来事。


「そうだよー。里帆ちゃんみたいに、三角関係?だったの。わたしが他の人を好きで、翔が、わたしのこと、好きでいてくれて…」


 懐かしそうに話す菜子さんを見て、2人の三角関係は、過去のもの。

 

 今の2人が乗り越えてきたものなんだと、実感した。

 

 わたしも、時間がかかるかもしれないけど、こうやって、乗り越えて過去にできる日が、来るだろうか…。


「もしかして、…社員の佐久間さん?」


「え!…なんでわかったの?」


「久保田さんが、ライバル視しているところ見たことあるので…」


「翔ー…、まだ疑うところ、あるのかな…」


 飽きれた様子と心配な様子が半々の菜子さんに、「菜子さんが大好きなだけですよ」といいたくなったけど…。


 それは、久保田さんが存分にこれから、わかるまで伝えていくと思うから。



 わたしは黙って、笑みの中に言葉を溶かした。

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