第5話

「え…」


 びっくりして、隣に立つはせくんを見上げた。


 高身長な2人は、至近距離で顔を見ようと思うと、予想以上に見上げる形になる。


 はせくんの目は、さっき見たときと同じぐらい、真剣で、まっすぐで…。


 わたしの瞳の奥の本音を、捕まえに来るような感じが、した。


(見透かされてる…)


 はせくんの言葉になにも言い返せないまま。


 はせくんは久保田さんのレジ締めの手伝いに向かった。


 わたしはその背中を追いながら、なんともいえない気持ちが、心に残ってる。


 いつも、なんとなく心に残るものが、あとから「こういう意味があったんだ」「こういう始まりがあったんだ」と思うんだけど…。。


 そのときには、気づかないものだから。



 一通り落ち着いて、バックヤードで退勤できる時間までを待つことに。

 

 セキュリティーの関係で、この時間までは退勤できない決まりがあるらしい。


 久保田さんは彼女の菜子さんとお店の方で電話中。


 わたしとはせくんは、テーブルに置いた荷物に突っ伏して、ちょっとした雑談をしている。

 

 そこにふと、見慣れたペンケースを見つけた。


「どうしよう…、望月くんのペンケースだ」


 お店のバックヤードは、店舗の裏にあるとは思えないほど、広いつくり。


 什器や在庫を置いても、ダンスができるぐらい、余裕がある空間で、必要な箇所しか電気をつけずに節約していた。


 忘れ物があっても、正直見落としやすい暗さだと思う。


 閉店間際だったから余計に、バックヤードの明るさは少なかったかもしれない。


「あー…、忘れてったな」


「まだ間に合うかな」


「え…」


「ちょっと行ってくる!」


「え、里帆…!」


 いつも冷静なはせくんの動きが、スローになるぐらい、戸惑ってる。


 はせくんの制止を聞かずに、わたしはペンケースを持って、バックヤードを飛び出した。


 さっき退店したばっかだし、運が良ければ、まだ近くにいるかもしれない!!!


 話ができるチャンスかも…!


 邪な気持ちがあったから、神様はわたしに、雷を落としたのかもしれない。

 

 瞬時の行動だったけど、咄嗟にスマホと社員証をもってきたわたしは、ずる賢い。


 警備員さんに「お疲れ様です」と挨拶をし、IDを通して従業員入り口から外に出る。


 まだどのお店も退勤せずに残っているから、帰宅する人はごく少数。


 少ない数の背中から、長身で見慣れた姿を見つけるのは、たやすいもの。


 わたしの視界にすぐ、望月くんの姿が飛び込んだ。


 (…っ望月くんだ!!)


 すぐに駆け寄ろうとした足が、一歩も動かず止まる。

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