第3話

休憩上がりの望月くんに、はせくんとわたしが2人でいたときの会話を話すということは…、好きな人の前で「恋愛の話」をするようなもの。


 そんなこと、今のわたしには、耐えれられない…!


 まだ、なにも進展がない恋愛に、爆弾を投下するようなもの!


 はせくんに無言のジェスチャーで、言わないで!と訴える。

 

 はせくんは、わたしの様子に気づいて、なにも言わずに見つめてきた。


「……里帆が、内緒にしてって訴えてくるから、言えないな」


「はせくん!!その言い方は…!」


 反論をすぐに入れようとしたけど、ここで天の声か悪魔の声か、久保田さんから、どっちか休憩入ってー!とお声がかかった。


「里帆、先に行きなよ。俺と洸でここ、片づけておくから」


 今日はわたしとはせくん、望月くん、社員の久保田さん、4人でお店を閉める。


 わたしが閉店作業になれるためだ。


 最後の休憩を回したら、お店の閉店に向けての準備が始まる。


 はせくんが、わたしの負担を減らすように、先に休憩を譲ってくれたのがわかった。


 こういうところに優しさが垣間見えるから、ときどき「え?」と思う意地悪をされても、はせくんを嫌いになれない。


 むしろ、自覚してるけど、好きな部類だと思う。


 望月くんがダントツ好きすぎるから、はせくんを異性として見れないガードがかかっているのもあるけど…。


「ありがとう。望月くんも、お願いしていい?」


「うん、大丈夫だよ」


 望月くんの笑顔に、もう一度、ありがとうと応えて、持ち場を離れようとしたとき。


 望月くんがぐいっと軽く腕を引っ張り、はせくんに聞こえない小声で「LINEで話を聞くよ」と言った後、さらりと腕を離した。


 一連の動作が嫌な感じがしないシンプルさで、終わった後、あとからくる感情にぼんっと赤面する。


 顔が赤くなっているのを見られないように、顔を少し伏せながら、久保田さんに、わたしが先に休憩に入ることを伝えにいった。





「洸って、ほんとに悪いやつだよなー…」


「え?なんで?」


(天使のような雰囲気をまとうこの男が、ほんとは悪魔だよって里帆にいってやりたい。)


 はせくんと望月くんの間で、こんな会話があったなんて露知れず。


 わたしは、望月くんの内面も見て、好きになった気でいた。

 

 知っているつもりで、知らない顔がまだまだ、たくさんあること。

 

 わたしが知っているつもりで、知ろうとしなかったはせくんの”想い”があること。


 このときのわたしは、まだ、何も知らなかった。


 恋愛は、傷つく覚悟と、傷つける覚悟の、両方が必要なことにも。

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