第2話

「俺にしとけば」



 いきなりそんなことを言われたら…、目が点になりますから。


 真剣な顔でわたしを見つめて離さないのは、バイト先の先輩(同い年の大学2年生)、長谷川亮くん。


 バイト先は、レディースもメンズも扱うアパレルショップで、大学2年に進級してすぐに応募し、合格。


 2カ月前から働き始めて、もうすぐ、教育係を卒業する、予定だったんだけど…。


 教育係の親友で、安定した売り上げを伸ばす先輩はせくんから、突如、こんなことを言われたら、…混乱します。


「はせくん、いきなり…、え?」


「だから、俺にしろ、恋愛するなら」


「…なにを唐突にいってるの?」


 わたしだけが話が通じないわけ、では、ないと思う。


 新作の段ボールが届いたから、仕分けして、出す分だけの袋開け、畳みの準備…の流れで、なぜ恋愛の話が?


 わたしのことをじっと見つめながらも、耳だけはフロアに意識を向けているのを感じる。

 

 はせくんの仕事している姿はかっこいいと思う…けど、今はほんとうに、マイナスな印象しか持てないよ。


「……」


 話が通じないわたしに、苦虫を噛むような顔をしたと思ったら、何事もなかったように作業に戻った。


「ちょーーーっと待って!え?どういうこと?」


「もう言わない。あとで、後悔すればいい」


「怖い暗示いわないで!」


 普段、クールでやや怖くも感じる悪魔イケメンのはせくんに「怖い暗示」を言われると、本当になりそうで怖い!


 この件で話すつもりはない、と、口を閉ざすはせくんに突っかかりながら作業を進めると、休憩上がりの望月くんが帰ってきた。

 

「望月くん…!」


「休憩ありがとうございましたーって、どうしたの?」

 

 休憩終わりの定型文を言った後、望月くんは、わたしとはせくんの間に流れる、ちょっと暗い空気を悟ってくれる。


「え?っとー…」


 望月くんが帰ってきた嬉しさが、素に出て、思わず名前を呼んだけど…、この空気に触れてほしいわけではなかった。


 わたしは、先輩であり、教育係である、望月くんが好きだから。


 バイト初日、教育係だと紹介された望月くんの笑顔と人柄に、わたしは一目惚れをした。

 

 はせくんと望月くんは、系統が真逆のイケメン。


 高身長で、スタイルの良さは後ろから見てるわかるぐらい。

 

 その上、アパレルでバイトしているのに納得!!な、おしゃれコンビ。


 2人は店舗でも有名な2人で、2人を目当てにしたお客様、指名するぐらいの顧客様もいるぐらい。

 

 決して、面食いじゃない!顔だけで好きになったわけじゃない!と言い訳したいけど、初めて見た望月くんの柔らかい笑顔が、忘れられない。


 まさに本当に、一目惚れだった。

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