第7話

月日を経て、アシスタントを卒業したわたしは、バイトをしていたお店でスタイリストになった。


今も変わらず働いているのは、私と当時、店長代理だった高坂さんと、悟先輩が可愛がっていた勇太先輩。


先月から、私と高坂さんが卒業した母校の専門学生が2人、アシスタントとしてバイトに入ってくれる。


高坂さんは、私がバイトの面接に来たときみたいに、「タバコの匂いは平気?」と聞かなかった。


主にタバコを吸っていたのは、悟先輩とやんちゃコンビだった凌也先輩の2人だったから。


凌也先輩は他店の店長になることが決まり、このお店でタバコを吸うのは、高坂さんと勇太先輩になるんだけど…。


2人とも、悟先輩を思い出して辛くなるから、タバコを控えるようになっている。


2人は会える距離にいるのに、何が恋しいのか。


私より全然羨ましい距離なんですけど!



今日は、久々に悟先輩のことを想い出した。


担当した新規さんをシャンプーするとき、ふわっと、懐かしいマルボロの香りがしたからだ。


レジの椅子から窓の向こうに目を向ければ、もうすぐ夏の季節。


私が悟先輩とがっつり過ごした季節が、また来る。


体に残った痕と匂いが消えても、記憶に残った香りは消えない。


きっと永遠に、夏の匂いとマルボロの匂いがセットになって、私を切ない気持ちに誘うだろう。



「先輩、幸せでいてね」


 

そして、先輩も思い出して。


夏の香りと一緒に、私を抱いたこと。





終わり。

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夏の香り、タバコの味。【完結】 広瀬 可菜 @hirosekana2024

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